第15話 癒しの奇跡
頭が痛い。目が白黒になっていたが、どうにか意識を取り戻した。
「あれ? ここはどこ?」
気づくとどこかの礼拝堂にいるのに気づいた。教壇の上には、大きな龍のオブジェがあった。明らかにキリスト教の礼拝堂ではない。
ステンドグラスに彩られた窓からは、月明かりが滲んでいた。
自分が生きていた事にホッとするが、どうも様子がおかしい。
礼拝堂の椅子は片付けられ、なぜか床に魔法陣が描かれていた。
その中央にはマリアとエレンが倒れていた。エレンは、マリアを庇うように倒れている。おでこからは血が流れ、顔色も悪かった。
「エレン、エレン!」
泣き叫びながらエレンを揺さぶるが、エレンは意識を失っていた。幸い、脈を見ると生きている事がわかる。死んでなくてホッとした。
「メイソン、アリス……」
魔法陣の外側には、メイソンとアリスも倒れていた事に気づいた。二人とも泡を吹いて仰向けに倒れていた。
「起きて!」
しかし、全く起きる様子はない。二人とも脈があり、死んではいなかったが、いくら揺り動かしても起きない。
「どうしよう……」
マリアは一旦、メイソンやアリスから離れた。脈を整え、とりあえず落ち着くように努めた。
この場所に魔法陣があるという事は、おそらく悪魔を召喚しようとしていたのに違いない。その為には生贄が必要だが、マリアやエレンが選ばれてしまったという事だろう。生贄は子供が犠牲になる事が多いので、ダンテがターゲットにならなかったのは不幸中の幸いだろう。
メイソンがアリスが倒れている理由は不明だが、儀式の途中で何かあったのに違いない。なんせ悪魔を召喚するのだ。それなりのパワーが必要だろう。
元いた世界でもこんな儀式をやっている事がニュースになったりしていた。特にカトリック教会の幼児虐待スキャンダルは、生贄儀式のようだと言われていた。
ただ、こんな儀式をやっても成功するのかは未知数だ。特にルシファーレベルの悪魔を召喚しようとなると、代々悪魔崇拝家系で近親相姦を繰り返している事も条件だったはずだ。ぽっと出の人間がいくら生贄を差し出しても、結局あまり意味がない。残念ながら、こういった霊的なものも血筋で決まってしまう傾向もある。日本やインドも代々偶像礼拝をやっている場所なので、他の国や地域より悪霊の要塞が厚かったりする。
メイソンやアリスが儀式に失敗した理由は何となく察せられた。
「どうしよう、とにかくエレンを助けなきゃ」
マリアは祈りながら、この時だけで良いので癒しの賜物をくださいと願った。聖書にも癒しの賜物があると書かれている。こういったものは扱うのは危険で、悪魔からの力もあったりする。現代に教会では、あまり言われていない事だ。
それでも血を流しているエレンを見ていたら放っておけなかった。
「どうか……」
こうしてエレンにおでこや頬に手を翳すと、しっと血が引いてきた。
「あっ!」
意識はまだ戻っていないようだが、とりあえず止血ができたようでホッとした。やっぱり緊急事態では神様も答えてくれたのかもしれない。元いた世界で修道女をやっていた時は、病院や孤児院に出向き、瀕死の怪我人や病人の世話をした事もあったが、祈っているとギリギリのところで回復した事もあった。
「神様、ありがとう」
マリアは、床にはいつくばるような姿勢で頭を下げた。
ちょうどその時だった。
教壇にある龍のオブジェの目が光り始めた。
『マリア、私と取り引きしないか?』
そんな声も聞こえた。




