第13話 私は聖女じゃありません!
「ちょ、みなさん! 私を拝まないでください。私は聖女じゃありません!」
マリアは必死に自分が普通の人である事を説明した。
「そうだよ。マリアちゃんは昆虫食が何よりも嫌いな普通の女性だよ」
ハリスも冷静に突っ込んでいたが、他の村人は聞く耳を持たず、平伏するように頭を下げていた。
エレンは相変わらず冷静だったが、足を組んで座り、観察するようにこちらを見ていた。少し冷たい視線で、ちょっと怖くなる。
同時に悪寒みたいのも感じた。悪霊かもしれない。こんな風に拝まれた側にも悪魔が入りやすいと言われている。
そうなってしまうと、とても傲慢な性格になる事もあるようだ。最初は普通の教会の牧師も、こんな風に拝まれるとカルト化するらしい。特に日本人は強く導いて欲しい依存的な人が多く、リーダー的な人をナチュラルに偶像崇拝しやすい。そうなるとその教会はカルト化してしまう。
これは教会に限った話ではなく、ネットのオンラインサロンのリーダー、自己啓発セミナーの講師、アイドル、歌手、俳優などもそうなりやすい傾向がある。
元いた世界で修道女をやっていた時は、元アイドルから相談を受けた事もあった。
「だってこんなに美味しい料理が作れるんだもの。聖女様だわ」
レイラがそう言うと、他の村人達も同じように声をあげて平伏しはじめた。
「ダメですよ、みなさん。このホットサンドを作ったのはエレンですし。食べ物は栄養にはなりますけれど、霊を満たし救うものではありません」
マリアは平伏している村人達に必死に訴えたが無理だった。
やはり元カルト信者達だ。いくら口ではカルトや昆虫食の悪口を言ったとしても、心の深い部分や魂、霊はカルトとガッツリ契約ができているようだった。魂の連結とも言う。これを断ち切らない限り、いくら人間的な努力でカルトを辞めたとしても似たような事を繰り返してしまう。
その証拠にハリスはこの連結が切れているのか、マリアを特別視はしていなかった。
「しかしマリアちゃんは、拝まれていいなぁ。気分いいだろ?」
そんなハリスは、少し羨ましそうにマリアを見ていたが。エレンはますますマリアを鋭い視線で見ていた。
さっきまで美味しいホットサンドを食べた和やかなムードは、消えかけていた。
「う、でも……」
確かの心のどこかでこんな風に崇められるのは、悪い気分はしなかった。
修道女をしていた時は、病院や孤児院に慰問に行くと石を投げつけられた事もあった。いわゆる迫害というやつだ。実際、自分がいた修道院も無くなってしまった。
その苦労が脳裏によぎる。そう思うと、今の状況って天国?
でも、マリアはこの思考を無理矢理追い出した。おそらく悪霊が見せている思考だ。
「ねえ、みなさん。少し聞いてくれます?」
成り行きだが、村人の前で福音を語った。こんな風に人前で語るのは、宣教師みたいで恥ずかしい。マリアは宣教師の仕事はやった事はなかった。
ただ、このまま村人達を放っておく事もできなかった。恥ずかしがってる場合では無い。
「そうか、そんな死ぬほど自分を愛してくれる神様がいたんだな」
ユージンがそう言ったのを皮切りに、村人達の態度が変わっていった。
「そうね。やっぱり私が今まで拝んでいた龍神や聖女はおかしかった」
レイラ、ジョンとカーラ夫婦も頷いていた。
「人が神様じゃなくて、人を創った神様がいたなんて驚きだよ」
ダンテもそう言い、村人達はマリアを聖女のように崇めるのを辞めていた。
同時に村人達とカルトとできた魂の契約も切ってやった。そんな断ち切りの祈りをすると、村人の表情が明らかに変わっていった。
「よかったわ。もう誰も人間を崇めてはダメです。神様はお一人だけよ」
気づくととマリアも涙ながらに語り、村人やハリスも抱きしめていた。
これで神様を信じて洗礼を受けるほどの覚悟があるかはわからないが、とりあえずカルトとの強い関係は切れたようだった。
さっき心の中でチラリと浮かんで思考は、気のせいだったと思いたい。確かに誰かに崇められるのは、気分はいいが、所詮命の限りのある人間だ。救いや永遠の命の案内はできても、それを与える事は出来ない。出来るのは神様だけだ。
気になるのはエレンの態度だった。泣きながら語るマリアを鋭い視線で見ていた。
これはどういう事?




