第12話 昆虫とホットサンド、どっちを食べたいですか?
「なんじゃ、こりゃ?」
村人の一人がホットサンドメーカーを見て、首を傾げた。
「なんだい、エレン。これは」
ハリスも不審がっていたが、甘くて香ばしい臭いに警戒心を解き始めた。
「ジャジャーン! マシュマロ木苺ジャムのホットサンドさ」
エレンが持ってきたこの兵器は、相当の威力があるようだった。
ハリスは5人ほど村人を連れてきたわけだが、全員顔をゆるゆるにしてホットサンドを食べてたいた。
「なにこれ、めっちゃ美味しい! うちの店で売りたい!」
そう言ったのは、カフェ店長のジョンだ。
「本当、あなた。これは、何なの? トロトロでジャムの甘みも最高なんですけど」
ジョンの奥さんであるカーラも、涙目になりながら喜んでいた。
「ママ! 何なのこれは! 昆虫食なんてやめよう!」
ジョンとカーラ夫婦の息子であるダンテも、興奮状態だった。
「たまげた。これはなんだ? 本当に何で我々は昆虫なんて食べていたんだ?」
そう言うのは、書店のユージンだ。少し神経質そうな彼が言っているので、本当にこのホットサンドが好評である事が伝わってくる。
「もう、あのカルトやめるわ。虫食っていくら徳が積もっても、不味いもんは食べたくないわね!」
最後にユージンの妻のレイラが笑っていった。ユージンと違って大らかそうな女性で、かなりハッキリものを言うタイプらしい。
よっぽど村人にこのホットサンドが好評だったのか、あっという間にパンもジャムも無くなってしまった。
残ったマシュマロを枝に刺し、みんなで焚き火を囲んで食べた。美味しいもののおかげで、マリアもすっかり村人達と打ち解けてしまった。
「エレン、あなたを差別してしまって本当にごめん!」
レイラは頭を下げたととたんに村人たちは、次々と謝罪し始めた。
「そんな、頭を下げないでくれよ。その代わり、アリスの噂について何か知らないかい?」
エレンはマシュマロもホットサンドも食べ慣れているので、冷静だった。マリアも当初の目的をすっかり忘れそうになっていたが、かなり冷静な性格と言える。その点は自分には無いものなので、ちょと憧れてしまった。
「アリスの噂は知らないけど、ぶっちゃけていい?」
「俺もぶっちゃけたい」
ここでジョンとカーラ夫妻が、何か言いたそうに口を開いた。
「実は昆虫食は、カルトの教義という面もあるけど、ウチみたいなカフェで推進すると教団から多額のお金を貰えたの……。表向きは補助金という名目だったけど、うちは借金もあったし……」
「本当にすまんかった。金には抗えなかったんだ」
夫婦に詳しく話聞くと、昆虫食は政府も推し進めていて、カルトの利権とも癒着していたそう。この点は元いた世界の政治と変わらず、マリアの表情が曇る。
「そんな、最低だな」
熱血漢のハリスは、握り拳を作って怒っていた。
「しょうがないだろ。生きていく為にお金は必要だ」
「そうだな、ユージン」
ユージンとエレンは、特に怒ってはいなかったが、「あんな不味いもの食わせやがって!」とハリスは怒っていた。
「でも、いいじゃないか僕はもうカルトもやめるし、昆虫も食べないよ。ホットサンドの方がいい」
ダンテがそう言い、険悪になりかけていたこの場のムードが和らいだ。他の村人もカルトはやめるというので、意見がまとまってしまった。エレンが用意したホットサンドメーカーという兵器は、恐ろしいほどの威力を発しているようだった。
「他に何かアリスの噂は聞いた事ないか?」
エレンがそう言うと、村人は一同に首を振った。
ただ一人、子供であるダンテだけが声を上げてていた。
「僕は、アリスに誘拐されそうになった事があるよ」
爆弾発言だった。再びこの場所が、険悪なムードに変わった。
ダンテによると半年前、一人で部屋で寝ていたらアリスとメイソンがやってきて連れ去られそうになったらしい。ジョンとカーラ夫婦は初耳だったらしく、言葉を失っていた。
「ああ、アリスは確か子供を誘拐してるっていう噂を聞いた事があったぞ。本当だったんだな」
ユージンもそんな事を言い、この場は誰も何もいえなくなってしまった。
どうやらハリスが言っていた教団で生贄儀式をやっていたのは、本当のようだった。これで帰る方法がわかるわけではないが、カルトがきな臭い事をやっているのは確定のようだった。
「でも良かったよおおお! ダンテが助かって!」
ハリスが号泣しながらダンテを抱きしめた。マリアもそんな光景を見ていたら、涙が出てきた。
「マリアの方が聖女みたいだよ!」
ダンテがそういったのを皮切りに、他の村人達もマリアを聖女のように拝み始めた。




