第11話 甘い香りに誘われて
どうもこの世界は時間感覚がおかしいようだった。
体感的にはかなり時間がたち、もう夕方になっている気分だが、空はスッキリとした水色だった。呑気に小鳥が空を飛び、陽が翳っていく雰囲気がない。
やはりゲーム世界という事なのだろうか。時間の流れも独特で、恐ろしくなってきたが、深く考えないようにした。
マリアは森の中で木苺をつみ、ジャムを作った。ジャムは元いた世界の修道院でも作っていたので得意だ。
「俺はジャムは作った事ないんだ。へー、意外と簡単に出来そうだ」
エレンは、焚き火の上にある小鍋を覗き込んだ。そこには出来上がったばかりの木苺ジャムがある。
「果実、砂糖、水があればできるからね。保存食でもあるから、冬になる前に作っていてもいいかも。マシュマロ、クラッカー、パンと何でもあうはず。魚には合わないけど、煮つける時に隠し味に入れてもいいわ」
「おぉ、マリアは物知りだな」
笑顔で褒められてしまい、マリアの頬は真っ赤になりそうだった。ゲーム世界の割に登場人物がリアルで困る。妙なものに目覚めそうで、マリアは黙々と作業をしていた。
恋なんてした事がない。それでいいと思っておたが、今は違う気もしてきて複雑な感情だ。もし、自分がここで恋をしたなら一生帰れなそうで怖くなってきた。
「ジャジャーン、マリア。すごい兵器があるぞ」
そんなマリアに、エレンはT字型のホットサンドメーカーを見せてきた。黒くてよく使い込まれたホットサンドメーカーだったが、今は「すごい兵器」である事に納得してしまう。
「こ、これは! ホットサンドで抵抗できる人はいないわ。絶対大丈夫よ!」
「うん、パンは昨日隣の村で買ってきたしな。確かにホットサンドに抵抗できる人はいないはずだ。このジャムとマシュマロで、封じ込めるぞ!」
二人でこうして話していると楽しくて仕方がない。これが甘ったるい恋愛なのか謎だったが、遅れてきた青春を取り戻している気がした。
もしかして月子も似たような気持ちでゲームや漫画をやっていたのかもしれない。確かにそれをしている時は、老いやお金などの現実的なものから逃避出来る感覚もある。若い主人公になり切れば、肌や髪の劣化している現実も忘れられた。
月子の気持ちがよくわかってしまった。
でも、自分はこのまこの世界にいていいの?確かに今はとても楽しいが、こんな事を考えたりしてしまったら、心がザワザワとしてくる。
やはり、一刻も早くこの世界から帰る方法を探さなければ。
その為にはアリスの行方を調べるのが、先決だろう。
「おーい! 連れてきたぞ!」
ちょうどそこのハリスが戻ってきた。村人を何人か引き連れていた。
エレンは、一人も連れて来られないで泣いて戻ってくるだろうと予想していたので、意外だった。
「さあ、この兵器でいきますか」
「そうね、ホットサンドからいきましょう!」
さっそくエレンはホットサンドメーカーにパン、ジャム、マシュマロを挟み、火にかけていた。
甘い香りが、テント周辺に爆弾のように打ち込まれた。




