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シスターですが、ゲーム世界の聖女にされそうです  作者: 地野千塩


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第10話 焼きマシュマロ

「こ、これはマシュマロじゃない!」


 マリアは歓喜の声をあげた。紙袋の中のはマシュマロが入っていた。


「なんだ、これ? 俺はこんなものは知らんぞ」


 ハリスはマシュマロを知らなかったが、その表情を見てエレンはニヤリと笑った。


「虫ばっかり食べてたお前は、これを食べたら昇天するぞ」

「なんだって!? そんなすごいのか?」


 ハリスはマシュマロの袋を開けようとしたが、エレンがさらりと取り上げた。そしてマシュマロを木の枝に刺すと、焚き火であぶった。


 ふわりと甘い香りが漂う。チリッと焦げる音と少し黒くなったマシュマロの表面。マリアは見ているだけで、ツバを飲み込んだ。きっとマシュマロを口に入れるとトロトロに溶け出しそう。


 肉体は全く空腹感は持てないのに、これは心理的に食べたくて仕方がない。


「マリアも食べろよ」

「え、ええ?!」


 マリアは、エレンから焼かれたマシュマロをもらった。はやる気持ちを抑えきれない。


「このマシュマロは、都心で出稼ぎに行った時買ったんだよ。普通に食べても美味しいが、やっぱり焼きマシュマロだよなぁ」


 ハリスもマリアもエレンの言葉など聞いていなかった。ぱくりとマシュマロに食いつく。熱々のマシュマロの洪水が口の中を襲っていた。柔らかく、すっと舌に甘みが溶ける。甘い香りがふわりと鼻を抜けていく。二人の目尻は下がりっぱなしだった。


「なんだ、コレは! 天国か!」

「oh! Thanks God!」


 ハリスもマリアも歓喜の声をあげ、感動して二人で抱き合うほどだった。


「ふふ、もう昆虫なんて食べたくないだろう?」

「ごめんよ、エレン! 俺は本当に気色悪い食生活を送っていた! どうかしてた! こんな美味しいものがあるなんて!」

「そうよ、もう頭がおかしい昆虫食なんてやめましょう。本当にカルト臭いわ」


 こんな事を二人がかりで言われてしまったハリスは、心底反省しているようだった。


「悪かった、エレン。君を追い出してしまった」

「もう、いいよ。お陰で俺も豊かな食生活を送ってる。本当に昆虫食から逃れられてよかった」

「うん。もう虫なんて絶対食わない!」


 という事でハリスとエレンは仲直りし、二人でしばらく語っていた。


 多くはカルトへの愚痴だった。お金や時間を取られたハリスの不平不満だったが。


「しかし、聖女のアリス様って一体どこにいるのかしら。エレンは何か噂を聞いていない?」


 アリスが失踪している事に気になった。この理由がわかれば、何か自分が帰る方法もわかる気がした。


「さあ。でも教団でメイソンとアリスが生贄儀式をやっているっていう噂があるんだよ」

「生贄儀式?」


 ハリスからそれを聞いてマリアは苦々しい気持ちになってきた。口の中はマシュマロのおかげで天国状態だったが、その甘みが消えていくような感覚を覚えた。


 元いた世界でも悪魔を呼び出し、成功する為に生贄儀式をやっているものがいた。聖書にも子供を悪魔に捧げるシーンが書かれていたりする。


 最近ではカトリックの幼児虐待スキャンダルが、生贄儀式のようだと言われていた。アメリカでは子供の誘拐数が多いが、生贄目的の誘拐なんじゃないかとも囁かれていた。日本でも某ネズミの国で子供が誘拐されたとか、カルトが多い土地で組織的に誘拐されていたという噂がある。


 かくいうマリアも誘拐された子供の親に会った事がある。牧師になろうとしていた時期だったが、彼らを見ていると人前に出て指導する牧師職は、自分にあっていない気もして無力感も持ってしまった。


「それはヤバいんじゃないか? アリスが失踪中という事は、彼女がその餌食になっている可能性があるぞ」


 エレンの言葉で、さっきまでの天国気分はサッと消えてしまった。


「そんな、どうすればいいの?」


 アリスが何か被害にあっている可能性は高そうで、身が震えてきた。焚き火に手を近づけたが、あまり温まらなかった。


「まあ、村人から情報収集するぐらいしかできないだろうね。神殿の内部に我々が入るわけにはいかない」


 エレンはやけに冷静だった。


「そうだけど……」

「俺は、アリスを助けたいぞ。そうだ、村人に聞き込みしようよ!」


 ハリスはヤル気に満ちていたが、エレンは苦笑して首を振った。


「どうやって聞くんだよ。お前は村で人気者か? はっきり言って嫌われてる方だろ。誰がお前の話を聞くんだ?」

「エレン、辛辣だぜ……」


 エレンは、とても冷静な性格みたいだった。というか、テント生活のおかげで野生のカンみたいなものが染み付いているようにも見えた。時々空を見たり、鳥の鳴き声に耳をすませたり、周囲の変化にも敏感そうだった。


 少しカッコいいと思ってしまうのは、気のせいか?


 これは遅れてきた青春というヤツなのだろうか。これ以上考えると、何かおかしなものに目覚めそうだ。


 マリアはそんな思考を振り払うように、二人に提案した。


「このマシュマロ目当てだったら、人の話を聞いてくれるかもね? マシュマロだけでなくて、美味しいものには、みんな弱いわよ」


 そういえば元いた世界で読んだ漫画、冒涜の書では、ヒロインが日本食を作って振る舞うシーンがあった。確か美味しい日本食を食べた人々は、ヒロインに心を開く展開だったはず。これが応用出来そうな気がした。


「それだ! 食べ物で釣ろうじゃないか!」


 ハリスは、熱っぽく叫んでいた。意外と熱血な彼らを止めるのは、難しそうだった。


 もう彼は、走って村人をここの呼びに行ってしまった。


「まあ、だったら我々も美味しい料理を用意しておこうか。マリア、手伝ってくれるか?」

「そうね。仕方がないみたい」


 成り行きで、元いた世界の漫画みたいな事をする事になってしまった。

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