第4話 可愛い義妹は聖女様
「よっ!よっ!よっ!」
家族が戻って来てから数日、今日も今日とてせっせと家の前の畑を耕す。
最愛の嫁と、愛らしい義妹と、憧れの義母が数カ月ぶりに帰って来てもそれは変わらない
なぜなら―――
「はぁ――――今日も良い土が耕せたなぁ―――それもこれも大地の精霊王様のお陰だ!」
畑を耕し作物を育てるのは、俺達”農夫”の大事な仕事
「いやぁ―――良い景色だ」
額に手をあて周囲を見渡す…
ここはザンブレック王国の外れにある小さな領地
というのも去年、アリシアたち三人と、おまけの俺の4人パーティーで討伐した魔王イザベラ
カームと呼ばれる4つの大陸を隔てる境界障壁を超える技術が確立された事で
北の大陸レイノスから、俺達人間族の棲むこの東の大陸フェラスへと侵攻してきた”魔族”
その魔族の女王たる魔王イザベラにより、ザンブレック王国軍は壊滅寸前まで追い込まれる。
魔族への従属を進言する家臣らの諫言を受け入れようとしていた、ハゲデブ…コホン
ザンブレック王の前に現れた超越職の3人と…おまけ1人
―――まぁ、その時の話はまた後日するとして
その時の報酬として、アリシアらが要求したのが”農作物が良く育つ肥沃な土地”だった
だから、俺たちの小さな家から見えるこの広大な畑は全て俺たちの畑だ
「ノーム義兄様ぁ―――!」
家の方から篭を手にしたルシアちゃんが、笑顔で手を振ってこちらに歩いてくる。
「やぁルシアちゃん、もうお昼?」
腰に掛けた手ぬぐいで額の汗を拭いながら、俺も笑顔でルシアちゃんに手を振る。
「フフフフ、もう、ノーム義兄様ってば畑仕事になったら時間を忘れちゃうんですから」
「本日は私と御一緒にお昼を食べて下さる約束だったでしょ?」
「もぅ…ルシアより畑仕事に夢中になって…妬いてしまいますわ…」
両手にバケットを持ち頬を膨らませているルシア
肩口で切り揃えられたエメラルドグリーンのくせ毛と白いリボンの髪飾り
大きく愛らしい銀色の垂れ目と目元のホクロ
先日の聖女装備ではなく、薄い緑のワンピース姿のオフショットだ。
―――うん、可愛い
ナデナデ…
「フフフフ♡ノーム義兄様は、わたくしの頭をなでれば何でも許されると思っておいでなんですね♡」
「そんな事はないよ?でも、ありがとうルシアちゃんがお昼を教えてくれなきゃ食べ損ねてたよ」
「嬉しいです、義兄様のお役に立てて…」
グゥゥゥゥゥ
「あらあら、フフフフ、では早速お昼にしましょうね」
「うんうん、一緒に食べよう」
俺たちは近くの切り株に二人で腰をかけ、ルシアが用意してくれたサンドイッチを口にする。
「ん?これメッチャ旨いよルシアちゃん!」
「フフフフ、ルシア頑張っちゃいました!」
嬉しそうに笑いながら、水筒を俺に手渡す。
「はい、どうぞアリシアの用意してくれた清水ですよ」
「おぉ用意が良いね―――」
ゴクゴク…
アリシアの清水は何時飲んでも旨い
「そういえば、アリシアとレイアさんはどうしたの?朝からどこかに出かけたみたいだけど?」
ルシアは小動物のようにサンドイッチをハムハムと噛みしめながら上目使いで見つめてくる。
「もう、わたくしと二人きりなんですから、今は私だけを見て下さい!」
愛らしい感じで妬いてるみたいだが、その瞳はハイライトが消えている。
ゾクッ
「い、いやぁ―――単に疑問に思っただけでさぁ―――あははは」
「―――まぁ良いですわ、アリシアとお母さまは王都へ買い出しに行かれました、あと義兄様の作られたお野菜を納品にも」
「あぁ成程」
アギャァァァァ!
その時、何かの咆哮と共に俺たちの座ってる周囲が薄暗くなる。
「!?なんだ?」
頭上を見上げると、太陽を覆い隠す程の巨大な鳥が俺達を狙って上空を旋回していた。
「あ、あれってガルーダ!?」
ガルーダとは、巨大な鷲のような魔物で
普段は山奥の森に生息しているのだが、
たまに餌を求め人里へと飛んできては多大な被害を及ぼす為、国からは魔獣認定されている動物だ
「あ、あいつ、まさか俺たちの畑の作物を!?」
アギャァァ!
ガルーダは、少し離れたトウモロコシの畑に空から滑空してくると畑の中に着地し
折角大きくなり始めてきていたトウモロコシをゴッソリその嘴でついばんでいく
「こらぁぁぁぁぁ!」
「ノーム義兄様!!」
ルシアの制止も聞かずクワを振り回しながらガルーダを追い払おうと突撃した
―――が
ギャァァァ!
「ぐわぁぁぁぁぁ!」
我が家よりも巨大な翼の羽ばたきで弾き飛ばされ、十数メートル吹き飛ばされた俺は
雨避けの為に植えていた木に後頭部から激突する
その衝撃で目の前がグラグラし世界がグルグル回転している
そんな俺に向って大きな嘴をあけ迫るガルーダ
「に、逃げて…ルシア――――」
揺れる視界に薄緑のワンピースとエメラルドグリーンのくせ毛が揺れる背中がうつる…
「テメェ…私の大事な大事な大事な大事な大事な大事な大事な大事な大事な――――ノーム様に何さらしてくれてんですかぁ?」
猛禽類の気味の悪いギョロっとした眼を輝かせながら嘴を開き迫るガルーダに向け
ルシアは右手を掲げる
「死にやがれです…ロストウインドウ(死滅風)」
ドガァァァァン!
ルシアの右手から放たれたのは、巨大な緑の風を凝縮した球体
アギャ?
球体はガルーダの身体を通過して遥か彼方へと飛んでいく
そしてガルーダは…
足だけ残し綺麗に消滅していた
「わぁぁぁぁん!ノーム様ぁぁぁ死なないでぇぇぇぇ!」
「ぐああああ!?骨!骨がいく!!」
泣きじゃくるルシアの全力抱擁
全身がミシミシと悲鳴を上げる。
―――平凡な農夫の義妹は、超越職の聖女であり
この世界最高の聖魔法と風魔法の使い手だ。
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