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その3

 こうして、地下に籠る事によって、隕石の衝突に備えようとしていた、我々、人類であったが、ちょうど、その避難計画が、軌道に乗り始めた頃を見計らったかのように、新たな事態が発生した。

絶望的な事態がー。

なんと「黄蛇」とは別の、もう一つの巨大な隕石が、地球に近づきつつある事が、明らかになったのだ。

太陽の磁気嵐に紛れて、地球に近づくそれに、人類は間近に迫られるまで、気付く事は無かった。

その巨大な隕石の名称は「青龍」。

青く輝くその色と「黄蛇」とは、比較にならない大きさから、そう名付けられたそれは、発見時に既に地球から、わずかな距離にまで急接近していた。

つまり地球は、反対方向から飛来する、二つの隕石に同時に襲われるという、文字通り超天文学的な不運に、見舞われたのであった。

一つならまだしも、二つの隕石に、ほとんど同時に衝突されれば、地球が当初の予想より、遥かに甚大な被害を受ける事は、間違いなく、せっかくほとんどの人類が避難した地下シェルターも、その役目を果たせるかどうかは、はなはだ疑わしかった。

しかも、後から出現した「青龍」は、先に確認された「黄蛇」よりも、はるかに巨大なのだ。

恐らく、地下シェルターなど何の役にも立たず、我々、人類は、地球の他の生物たちと共に、絶滅するのだろう。

政府は必死に、地下シェルターに入っていれば、生き延びるチャンスがある事を強弁していたが、それは、人々がパニックを起こす事を恐れて発せられた、苦し紛れの詭弁である事は、誰の目にも明らかであった。

そう、我々は全員死ぬのだ。

後、残り、一週間ほどで。

地球に生きる、他の全生命と共にー。

各国政府による情報統制にも関わらず、この事実が人々の間に徐々に広まり始めると、もちろん世界中でパニックを起こす者が続出した。

人々の絶望は深かった。

だが事ここに至っては、最早、我々に出来る事はなく、とりあえず政府の言う通り、地下シェルターに閉じこもって、その時が来るのを、静かに待つしかなかった。

ヤケを起こして、自暴自棄に陥る者や、政府を声高に責める者も幾人かはおり、更に各地で、様々な事件や暴動が起こったりした。

しかし、やがて、人々の間で諦念の気持ちが強くなったのか、それも徐々に収まり、今や全世界は、不思議な静けさに包まれていた。

少し前まで、世界各地で繰り返されていた戦争や紛争もすべて収まり、人々は、世界各地に設けられた地下シェルターに籠り、ただひたすら、静かに最後の日々を過ごしていたのであった。


そんな風に、人類の悲惨な状況と絶望的な未来に思いを馳せつつ、ただ一人夜の街を歩く、わたしであったが、そんなわたしの耳に、どこからか響く、大勢の人々が放つ、重低音のような声が聞こえて来た。

わたしが声のした方を見ると、そこには道なりに小学校の校舎が建っており、どうやら、そのうなるような声は、その学校のグラウンドの方から、響いてきている様であった。

わたしが、歩きながら目をこらすと、その小学校のグラウンドには、大勢の人達が集まっており、全員が、一斉に地面に座り込んで、何やら口々に、祈りの言葉を唱えている。

その異様な集団の姿を、校門越しに見たわたしは、腑に落ちたように、軽く首をうなずかせた。


(ああ、例の人たちかー)


実は今、人々の間では、大勢で集まって、神に向かって祈りを捧げる運動というか、一種の宗教的なムーブメントが流行っていた。

それは、不特定多数の人々が地下シェルターを抜け出して、公園や広場、はたまた学校など、開けたスペースに集まって、一斉に地面にひざまずき、夜空に向かって祈りを捧げるというもので、もちろん、その祈りの内容は、彗星の激突から、地球を救って欲しいとの、神頼み一択であった。

要するに、いよいよ打つ手の無くなった人類が、とうとう神頼みに走り、世界中の街で、いくつもの集団となって、夜空に向かって祈りを捧げているー。

そんな状況だったのだ。

それは、いよいよ、破滅の日を迎えようとしている人々の、絶望的な運命に対する、いわば最後の抵抗なのかもしれなかった。

わたしが、件の小学校の路傍を歩きながら、横目で校内の様子を見ると、そこには、校門の向こうに広がるグラウンドに整然と座り込んでいる、老若男女の大勢の人達の姿があった。

みんな胸元で腕を組み、一心不乱に夜空に向かって、祈りの言葉を唱えている。

わたしは、そんな彼らの様子を横目で見ながら、小学校の前を、足早に通り過ぎる。

そんな、わたしの頭に、何故か、古い英語の歌の題名が浮かんだ。


When You Wish Upon a Star (星に願いを)


わたしは、軽く首を振ると、そんな雑念を頭から追い払った。

今は、余計な事を考えている、場合ではない。

早く、星彦君の家に行かないとー。

わたしは、歩む足を更に早めた。

すると、そんなわたしの背後で、周囲の街並みを圧するように建っている、小学校の巨大な校舎のシルエットは、徐々に遠ざかっていき、その中から響く祈りの声も、少しずつ途切れがちになっていった。


[続く]



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