その2
すべては、二年前の夏に始まった。
西暦20○○年の、7月のことだ。
地球に急接近する彗星「黄蛇」が、中国に設置されている、巨大望遠鏡によって発見されたのだ。
全体的に黄色であることから「黄蛇」と名付けられたそれは、軌道を計算した所、地球に確実に衝突して、この星に多大な損害をもたらすと思われた。
ちなみに地球には、過去に何度か、巨大な隕石が衝突しており、一番有名なのは、恐竜を始めとして地上の生物の大半を絶滅させた、約6600万年前にこの星に衝突した巨大隕石だろう。
ともあれ、恐竜の時代を終わらせた、それと、同じくらいの大きさを持つ、それが、地球に急接近した事に気づいた各国政府は、ただちに対抗策を検討し始めた。
世界中の科学者や政治家が、頭を振り絞って考えた救済策はいくつもあったが、その中で比較的有力とされたのは、以下の三つの計画であった。
一つは、巨大な宇宙船や宇宙ステーションをいくつも作って、全人類をそこに避難させ、隕石が地球に激突する瞬間を回避し、更にまた、その影響が無くなるまでは、宇宙に留まるというものだった。
つまりは、一時的に宇宙に避難して、隕石の激突をやり過ごし、その後に安全を確認してから、再び地球に帰還するという目論みだったのだが、この計画は比較的早い段階で、不可能と判断された。
短期間の間に、それだけの数の宇宙船や宇宙ステーションを作るには、時間が全く足りなかったし、そもそも技術的な問題も、山積みであった。
限られた数だけを作って、そこに少数のエリートだけを乗せて、地球外に脱出させるという案もあったが、そんな事をすれば、一般大衆の反発をかって、世界規模の内乱が勃発するのは必至であった。
そんなこんなで、この案は廃止になり、次に有力視されたのは、ミサイル攻撃で、隕石自体を、地球に届くまでに、木っ端微塵に破壊するというものだった
この案は、かなりの支持を集めたのだが、やはり技術的な問題が立ちはだかった。
隕石を破壊するのに充分な数の、ミサイルを搭載した攻撃衛星を、大気圏外に打ち上げる必要があり、それは今の宇宙技術では、やはり難しかったのだ。
開発に何年もかかり、もちろんそんな時間的余裕は、我々には残されていなかった。
結局、最後に選択されたのは、三番目の案。
つまり、世界中に地下シェルターをつくり、全人類がそこに入って、隕石の衝突から身を守るという案であった。
この案は、現在の技術で充分に実現可能であり、かくして多くの国々で、全ての国民が避難出来るだけの、大規模な地下シェルターが、次々と作られ始めた。
もちろん、隕石が直接衝突するであろう地域からは、人々は全員避難し、他の安全な場所で、そこに作られた地下シェルターで、身を潜める手筈になっていた。
こうして、20○○年7月の現在、世界中には膨大な数の地下シェルターが作られ、人類のほとんどは、その中に入って、隕石の衝突と、それに伴って起こる災厄を、何とか、やり過ごそうとしていたのであった。
[続く]




