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その1

 When you wish upon a star

(星に願いを掛けるとき)

Make no difference who you are

(あなたが誰であるかは関係ありません)

Anything your heart desires

(あなたの心が望むものは何でも)

Will come to you

(あなたのところに来ます)

If your heart is in your dream

(あなたの心が夢で満たされているなら)


[アニメ映画「ピノキオ」より]


その日、わたしは夜の街中を足早に歩いていた。

大好きな人と会うために。

そして、地球はまもなく滅び去ろうとしていた。

長い尾をたなびかせて、夜空を駆ける、二つの彗星の為にー。


わたしは、天野織姫。

18歳の平凡な女子高生だ。

うら若き乙女(?)である、わたしが、こんな人気のない住宅街の夜道を、ただ一人で歩くのは、前述した通り、好きな人に会うためであり、今から、彼の住む家に、行こうとしているからであった。

わたしが、今、歩いているのは、数多くの建物が整然と立ち並んでいる住宅街で、本来ならば、こんな夜の時間帯でも、大勢の人たちが、建物ごとに日々の暮らしを営んでいる筈であり、その間を走る道路を、こうして一人で歩いても、さほどの心細さは感じない筈であった。

だが、今はそれらの家々にはまったく人気がなく、本来ならば、灯りがついている筈の窓も、黒一色に塗りつぶされていた。

つまりは、わたしはほとんど人気のない無人の街をただ一人、孤独に歩いていたのだった。

どうして、こんな事になったかといえば、ほとんどの人々が地上を離れ、地下に設けられたシェルターへと避難しているからだ。

もうすぐ、地上に衝突するであろう、二つの巨大彗星の脅威から逃れるためにー。

わたしは、そんな風に思いを巡らすと、夜の街を行く己が足を止める事なく、上空をキッと睨みつけた。

わたしが歩く、街中のはるか上方には、漆黒の夜空が広がっており、無数の星々が、競い合う様にまたたいていた。

だが、その夜空で、もっとも目を引くのは、それらの星々でも、煌々と輝く月でもなく、ちょうど正反対の方向から地球に近づきつつある、長い尾をたなびかせた、二つの巨大な彗星であった。

青龍と黄蛇ー。

全体的な色合いから、そう名付けられた、その二つの彗星は、全く違う方向から、徐々に地球に近づきつつあり、間も無くほとんど同時に地上に落下し、我々の住むこの星に、壊滅的な被害を与えるはずであった。


(一つならともかく、何で二つもー。しかもほとんど同時に)


わたしは、地球を、まさしく天文学的な確率で襲った、その宇宙から飛来しつつある、二つの脅威を、夜道を歩きながら見上げ、今更ながら、この時代に生まれついた、我が身を呪った。

今、現在、人類はこの地球に激突しようとしている、この二つの彗星の脅威から逃れるために、そのほとんどが、地下にシェルターを造って、そこに身を潜めており、わたしが歩いている住宅街に、ほとんど人気がないのには、そのような理由があったのだ。

わたしも、つい先程までは、両親と共に、この付近に造られた、巨大な地下シェルターに避難していたのだが、ある目的の為にそこを抜け出し、このほとんど無人と化した住宅街を、ただ一人で歩いているのだった。

両親には、ずいぶん引き留められたが、わたしはその静止を振り切り、まだ通行自由なシェルターの出入り口を通って外へ出た。

わたしが、そんな大胆な行動をとったのには、もちろん訳がある。

それは、わたしの高校の同級生であり想い人である、猿田星彦君に会い、彼にわたしの気持ちを伝え、出来るならば最期の刻まで、彼と一緒に過ごす為であった。

彼、猿田星彦君は、大変、変わり者であり、彗星が地球に激突する破滅の時が、刻一刻と迫っているにも関わらず、地下シェルターには入らず、家族とも離れて、地上の実家で、相変わらず暮らし続けているのだ。

まぁ、そんな所も好きなのだがー。

わたしの、そんな想いを知った両親は、最初は反対したものの、結局は、わたしの意思を尊重して、地下シェルターから出て、地上にいる彼の元に行く事に同意してくれた。

それは、やはり、地下シェルターにいたとしても、わたしたち人類が、生き延びる確率が、限りなく低い事を、両親も知っているからだろう。

各国政府は、地下シェルターの中にいれば安全であり、人類は滅亡する事はないと、繰り返し強弁していたが、やはり冷静に考えれば、それは明らかに気休めにしか過ぎなかった。

わたしは歩きながら、上空に浮かぶ二つの彗星を、再びキッと睨みつけると、歩む足を更に早めた。

そして、地下シェルターを出てから、ずっと胸元に抱きしめている大きな紙袋を、あらためて持ち直し、更に強く胸元に抱きしめた。

わたしが抱きしめている紙袋には、苦労してかき集めた、様々な食材が入っているのだ。

ニンジン、じゃがいも、玉ねぎなどの野菜類。

パック入りの白米に、カレー粉に、スープの素。

それに、今では、ダイヤモンドより貴重な、牛のコマ切れ肉。

要するに、カレーライスの材料だ。

わたしは、その食材を、星彦君の家で調理して、自分の唯一の得意料理である、それを、彼に食べてもらうつもりなのだ。

そして、それこそが、わたしが勇気を振り絞って、地下シェルターを抜け出した、表向きの理由であり、また、同時にそれは、実は、愛する人と共に最後の時を過ごしたいという、わたしの真の目論みの、大きな部分を占めていた。


(星彦君の家の台所が、使えればいいけどー。確か、自家発電装置はあったはず)


そんな風に、無人の街並みの中、夜道を急ぐわたしであったが、不意に背後で、何かがうごめく気配がした。


「ーっ!!!」


危険を感じた、わたしは、ビクリと身体を震わせると、思わず背後を振り返る。

するとー。


「ニャアー」


わたしが、その間を抜けて来た、移動する街路の塀の上に、一匹の猫がうずくまっており、闇の中で、その双眸を青く光らせていた。


「びっくりさせないでよ。もうっ!この、バカ猫っ!!」


わたしはそう、吐き捨てるように言うと、再び前を向き、袋に入った食材を、さらにきつく胸にかき抱いた。

そして、堀の上から自分を見つめる、猫の怪しげな視線を背中に感じながらも、後ろを振り返る事もなく、しんとした住宅街の闇に、正面から向き合うと、まるで小走りするみたいなスピードで、夜の小道を、再びわき目もふらずに歩き出した。


[続く]




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