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第16話 秘密基地

 大地は痩せて赤黄色を帯び、樹木は落葉し、枯れて茶色になった草原が広がる地域に転移した超巨大飛空艇。外の気候や地形から察するにこの飛空艇は南大陸ドワンゴナの西地域から中央地域に転移したようだ。


 しばらくすると警報音は止み、基地に着陸するとアナウンスが流れた。どうやらゼロとマレージョの追跡を振り切ったらしい。


 船内モニターから外の様子を眺め、内心ホッと安堵するルシアは超巨大飛空艇内を探索したくてたまらないイズが逃げ出さないよう手を握りながら着陸を待つ。


「なあルシア。俺まだ超巨大飛空艇は操縦したことないからさ。後で操縦させてもらえるようにお願いしてくれない?」


「駄目に決まってるでしょ。飛空艇なんか壊したら一生かけても弁償できないわよ」


「大丈夫だって。絶対壊さないから」


「大丈夫じゃない。あんた絶対壊すもの。むしろ壊さなかったことないもの」


 そんな会話をしながら待っていると船内が小さく揺れ、笑顔の団員たちが雑談をしながら通路を歩いている姿が見えた。


 その後、下船を許可する船内アナウンスが流れたため、団員たちの後を追うようにイズと一緒に飛空艇を降りる。


 先ほど船内モニターで外の様子を観察したときは草原が広がっていた。しかし今はクレーンや組まれた鉄骨や様々な機材が格納された倉庫、もしくは造船所のような光景が広がっている。


 雰囲気からしてこの場所はアルフレイドたちのアジト。地上から発見されないよう地下に施設を建造したのだろう。


 そう思いながら団員たちの列に並んで施設の奥へと進む。


 それにしても大規模な施設だ。ただの空賊が所有できるような施設ではない。転移装置を備えた超巨大飛空艇もそうだが、どうやってアクソロティ協会の目を掻い潜り、建造に至ったのだろうか。


 様々な疑問が沸いてくる中、団員に案内された大ホールに足を運ぶ。食堂と憩いの場を兼ねたような場所だ。


 そこの中央広場に設置されたソファに座り、優雅に紅茶を愉しむ一人の老婆がいた。


 ルシアは小さくため息をつき、その老婆に近寄る。


「ドナ先生。こんなところでなにやってるんですか……」


 紅茶をすすったドナはティーカップをテーブルに置いた。


「見てわかるだろう。紅茶を飲んでるところさね」


「そうじゃなくて。なんで先生がアルフレイドたちのアジトにいるかって話です」


「昔の教え子たちの元を訪問してお茶するのが隠居した私の趣味だからさ」


「でもアルフレイドは世界的犯罪者。アクソロティ協会のみならず世界の敵です。遊びに来るのは違うかと……」


「何度も来てるからもう遅いよ! それに年に一度も顔出さない連絡しないあんたより、来るたび歓迎してくれるアルフレイドのほうがよっぽど可愛い気があるからね!」


「そ、それは申し訳なかったです。でも私も色々と忙しくて……」


 そう答えるとちらりとイズに目を向けたドナは鼻で嘲笑う。


「ルシア。子供二人育てるくらいで音を上げるなんてあんたもまだまだだね。そんな柔な育て方した覚えはないよ! それにね。私はこれまでどれだけの子供たちを育ててきたことか。あんたは私を見習ってなんでもこなせる凄い女になりな!」


「私は先生みたいなスーパーウーマンにはなれませんよ」


「目指さなきゃなれないじゃないか! 昔から口を酸っぱくして言ってるだろ!? 自分を甘やかす言いわけを考えるんじゃないよ!」


 段々と説教染みてきたのでルシアは苦笑いでやり過ごしていると、手を離れたイズがドナのいるソファの向かい側に腰を下ろした。


「ドナ婆さんってアルフレイドの先生もやってたんだな。――でも可愛い教え子だからって秘密基地とか超大型飛空艇とかプレゼントするのは甘やかし過ぎじゃないの?」


 イズの問いかけにドナは感嘆の声を上げた。


「ほう。よく感づいたね。なかなかやるじゃないかい」


 それはルシアも感づいた。そもそも世界中に悪名が轟いているアルフレイドに対し、これほどまで絶大な支援をする者などドナ以外に考えられない。


 そんなドナはニヤリとほくそ笑む。


「しかしイズといいシンクといい。親が責められると嫌味や文句を言ってくるのは指導の賜物かい? ルシア?」


 イズの隣に座って肩に手を回したルシアはニコっと微笑む。


「親孝行なだけですよ、二人とも」


「ルシアは俺の親じゃないけどな。あと勝手にくっつくな」


「えー。別にいいじゃないー。仲良くしましょうよー」


 鬱陶しそうな顔をするイズを引き寄せてにやけるルシア。嫌がっていても可愛さ余ってついこんなことをしてしまう。悪いとは思っているが、でもやめられない。


 そんなことをしているといつの間にかやって来たアルフレイドがドナの隣に腰を下ろした。


「悪い悪い。気絶したゴルフィートを診療室に連れてく途中でライドも倒れてるの見つけてな。二人とも診療室に連れて行ってたら来るのが遅くなった」


「なんだい。奴らデカい図体してまだ魔力酔いするのかい? そんなんだからチャイルドヘイブンの子供たちに馬鹿にされるのさ」


 ドナがそう語るとアルフレイドは声を上げて笑う。


「子供たちに好かれるって言ってやれよ、先生。それに奴らは幼児担当の教員だった。あれくらいのほうが子供たちには受けがいいだろ」


「教員? ゴルフィートってチャイルドヘイブンの教員なの? っていうことはアクソロティ協会員だったのか?」


 そう言ってイズは首を傾げる。


 不思議に思うのも無理ない。イズの目線からすればゴルフィートたちは住民に危害を加える荒くれ者。初めて出会ったときにそういった光景を見ている。


「ゴルフィートだけじゃないよ。ここにいるほとんどが元アクソロティ協会関係者。アクソロティ協会を抜けた者たちさね」


 ドナが答えるとイズはますます首を傾げる。


「うーん。なんかよくわからなくなってきたぞ。なんで元アクソロティ協会の人たちがこんなに集まってアクソロティ協会と戦ってるんだ? しかも今は世界中で悪いことしてるし。それにアクソロティ協会って簡単に抜けられないんじゃなかったっけ?」


「ここはアクソロティ協会から追われる者たちが辿り着く最後の砦さね。匿ってもらう者もいれば空賊として戦う者もいる。それとアクソロティ協会の中には一般人などを装って諜報活動をする者たちがいてね。イズの身近な者だとレテルがその任に就いているが……そういった奴らとも戦ったりする。悪事を働くなんてアクソロティ協会側の情報操作さ。もっとも、訳を知らない一般人からしたら悪事を働いているように見えるだろうがね」


「じゃあ俺が見たゴルフィートが脱走した仲間を虐めてる光景は?」


 イズが疑問を呈しながらルシアに目を向けてきた。


「あれはゴルフィート団から情報を奪って逃げたアクソロティ協会の内通者を連れ戻そうとしてた光景よ。――今まで嘘ついてごめんなさい、イズ。私はアクソロティ協会員だから。裏切り行為と見なされる言動はできなかったの」


「それは全然良いんだ。本当のこと知れて良かったよ。――でもアルフレイドが悪いことしたのは多分本当なんだろ? もしかしてラオフーの話してたことと関係ある?」


 イズの目線がアルフレイドに向く。


「ああ。昔アレンを倒そうと歯向かったときに体内アクソロティの制御を奪われてな。脳が侵食されて、俺は一度意思持たぬ殺戮人形になった。――まあ、今はドナ先生の術のおかげで意識は保ってるし侵食は止まってる。だが、アレンに近づけばまた脳の侵食は再開する。脳が完全に侵食されればもう元には戻れない」


 だから、と言ってアルフレイドは笑う。


「そうなる前にイズ。お前に修行をつけてやる。早く強くなって勇者になりたいだろ?」


「そうだね。それは嬉しいけどでもなんで俺に?」


「お前は戦士として見どころがある。しっかり鍛えりゃいざとなったときに俺を止めてくれるかもしれないし、それにアリティエの夢を叶えてくれるんだろ? 先生から二か月間は暇になるって聞いてたし、だから保護者の同意を得てお前をスカウトに来たってわけだ」


「そっか。だからルシアはアルフレイドと一緒にいたのか。――でもなんで急にアリティエの話出てきたの?」


「アリティエは俺の妻だ。もうこんな状況だから表立って会えないが……たまに会ったときイズの話はよく聞いてたよ」


「ええ!? アリティエってアルフレイドと結婚してたの!? なにそれ面白!! それじゃー修行しながらいろんな面白話聞かせてくれ!!」


 そう言って目を輝かせるイズに対し、アルフレイドは嬉しそうに声を上げて笑った。


「おう! 色々聞かせてやるぜ! 楽しみに待っとけ!」

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