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贄の運び屋  作者: ニシキメサイコ
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ゴン爺の正体

ガンゾー率いる『沼の牙』の護衛のもと、疾斗は見知らぬ川辺を、朝日を浴びながら歩いていた。


「なぁ、特訓の場所ってどこだよ。もう2日も歩き続けてるぞ?」


歩き疲れたことを前面に押し出して疾斗が言うと、「あしょこに見える山だ」とガンゾーが短く返答した。


言われた疾斗が前方に目をやると、確かに山がある。そうしてその山はどこか彼の記憶を刺激してくるものだった。


「あの山、一度見たことがある……。あ、ゴン爺さんがいるとこか!」


「たしかにしょうだが、よく覚えていたな」


ところで、いまいちピンときていない人のために説明すると、ゴン爺とは、疾斗がゼントとの戦いで負傷した腕を治療してもらうために会った老医だ。


しかし、本来の目的であった治療が終えた後、一介の医者に過ぎないゴン爺から、疾斗はこの世界に来て初めて運供の儀に関する情報を聞いたのであった。


「ゴン爺さんのことも気になるけど、お前の語尾、前よりもひどくなってないか?」


疾斗はガンゾーにそう尋ねた。


たしかに、「さ」だけでなく「サ行」全般のクセが強くなった気がする。


「しょ、しょんなことないだろ」


言っているそばから、である。


「ま、いいか」


疾斗のこの言葉で会話はひとまず区切りがつき、彼らはゴン爺がいる前方の山を目指して黙々と歩き続けた。


さて、それから30分ほど後。


既に目的の山の中腹まで到達した一行は道の脇に固まってひと休みすることに。


そして疾斗が皆に倣(なら)って腰を下ろそうとしたその時だった。


上方からメキメキと木の倒れる音が聞こえてきた。


「なあ、今のは?」と疾斗。


「分からんが、行くしかない」


ガンゾーたち半魚人はご自慢の脚力、疾斗は疾走符を使い、一気に上を目指す。


音の聞こえた所まで来てみると、そこには見たことのあるゴン爺の小屋とその前の原っぱで少年と組み手をしているゴン爺がいた。


「ゴン爺さん、久しぶりです」と疾斗が声をかけると、こちらに気付いたらしく、少年の攻撃を往(い)なしながら口元に笑みを浮かべた。


一方の少年は、自分がまったくもって相手になっていないことを悟ると、ゴン爺から距離を取り、「もう休みましょう。師匠」と言った。


「そうじゃのう」


ゴン爺は頷くと、「おぬしらも、まぁ入れ」と手招きをして小屋の中へ。


ガンゾーと疾斗は顔を見合わせるもそれに従い、残りの半魚人たちも2人についていく。


全員が小屋の中へ入るまで外で待っていたのはゴン爺と組み手をしていた銀髪の少年だったのだが、彼が浮かべていたのはどこか含みのある微笑であった。


その少年も輪に入り、ゴン爺は「さて、」と話を始めた。


「ヘルメフォンから話のあらましは聞いておるが、おぬしの口から改めて聞こうか。のう、ハヤト」


「ヘルメフォン」とはガンゾーが人間の貴族だった時の姓だ。覚えている人もいると思うが、ガンゾーの正式な名前はガンゾールゾ・ディタ・ヘルメフォン。「ガンゾールゾ」が固有の名前で、「ディタ」は階級名である。


それはともかく、疾斗はゴン爺と別れてからの体験をこと細かに説明した。


商都ヴェミリに着いてからの話はガンゾーも知らなかったため、彼は時折、「しょうだったのか」と頷いたり、目をパチクリさせたりしながら聞いていた。


疾斗がひと通り話し終えると、ゴン爺は腕を組んで唸ってみせた。


「これは、うかうかして居られんぞ…」


「なんかありました?」


珍しく頭が回らない疾斗がこう尋ねると、ゴン爺は神妙な面持ちで応える。


「おぬしの話からすると、そのヤルバーという男は今も正剣兵団と関わりがあるやも知れんぞ」


疾斗は以前、ヤルバーから正剣兵団について情報を聞いたことがあったのだが、その部分を聞いてゴン爺はこの結論に至ったという。


「ん、関わりがあるとなんなんですか。正剣兵団は運供の儀を止めるのが目的ですよね?」


ため息を挟んで応えるゴン爺。


「それで、今ヤルバーと共に居るのは生け贄の少女ではないのか……」


これにハッとする疾斗。


運供の儀を止めるということには、生け贄を殺すという手段も含まれるのだ。


「でも、アイツに限ってそんなはずないです」


疾斗がそう言い切ったのを聞いて、「そうか」と頷くと、ゴン爺は話の船首を別方へ向けた。


「では、おぬしはこれから何を為す?」


「アズーとヨンメルを連れて、デュリオスのもとへ行きます」


こう疾斗が答えた。すると、「ちょっといいですか?」と、ずっと黙っていた人物が会話に交わろうとする。


皆がそちらへ目をやると、挙手していたのは例の銀髪の少年であった。それにしても端正な顔立ちだ。


少年は咳払いをしてから尋ねた。


「あなたは巷(ちまた)でウワサの贄の運び屋さんですよね。教皇騎士団と同じくデュリオスの所へ生け贄を連れて行くなら彼らに任せてもいいんじゃ……?」


彼の疑問は至極真っ当だし、実際のところ、ゴン爺もガンゾーもそれについて質問しようとしていたため、急に話に割って入った少年については誰も言及しなかった。


そして疾斗はいつかヤルバーに言った理由とほとんど同じ内容を話す。


「俺はアズーとヨンメルを伝説の怪物の元へ連れて行って、そして……」


その全てを聞いたゴン爺は言った。


「ならばやはりワシが修行を見てやらんとのぅ」


「あの、それなんですけど…」と今度は疾斗が挙手をする。


「なんでゴン爺さんなんですか。ガンゾーでもいいんじゃないかな〜って…」


これにゴン爺が、「なんじゃとぉ!」と憤激し、ガンゾーがそれを制して疾斗に言った。


「俺しゃまも最近(しゃいきん)知ったんだが、コイツは元四肢戦士だったらしいのだ」


「ん?」


「だから、コイツは四肢戦士最強の拳法使い、ゴンディ・チーユだったのだ」


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

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