【幕間】葛藤のヤルバー
夜。暗い暗い森の中。
足場の悪い砂利道をガタンガタンと音を立てながら進んでいく、6本足の羊のような生き物が引く車。
その車に乗っている馭者は手綱ではなく、笛を構えていた。彼は何もない空を見上げて悲しげな曲の触りだけを奏でてはその余韻に耳を傾ける。
そんなことを繰り返していた時、彼がもたれかかっていた窓がコンコンと振動した。
振り返り窓を開けると、中から紅色の髪を持つ少女が顔を出して、「この車はどこへ向かってるのかしら、馭者さん?」と気取って尋ねた。
これに対し、今まで被っていたフードを取り去り、「お目覚めですか、お嬢さん」と調子を合わせて馭者が応えると、少女はそれを鼻で笑う。
「ヤルバー。似合ってないわよ、その喋り方」
「ヨンメルちゃんも、さ」
2人がそんな風に言い合っていると、次第に周囲に霧が立ち込めてきたためにヤルバーが馬を止める。
「ドウドウ…。よぉし、今日はここで野宿かな〜」
ヤルバーが伸びをすると、「アタシは中、アンタは外よ」と窓を閉めるヨンメル。
「つれないねぇ…」
言いながらも再びフードを被り、眠りに入る態勢を取る。
さて、それから数時間後。
カリカリとペンの走る音で目を覚ましたヨンメルがそっと窓を開けると、ランプの明かりを頼りに手紙を書いているヤルバーがいた。
彼は何やら独り言を呟いている。
「ティマか、ヨンメルちゃんか……。くそっ、ハヤトなら迷わず両方取るんだろうな」
「なに書いてるのよ?」
「よ、ヨンメルちゃん!?」
本当に彼女に気付いていなかったらしく、思わず仰反るヤルバー。
見せてみなさいよ、と彼女が無理やり紙を取ろうとすると、ヤルバーは慌ててそれを取り上げ、「子どもにはまだ早いかな〜」と、ごまかした。
「ふぅ〜ん」
不満げながらも車の中へ戻るヨンメル。また幼き夢へ浸るのだろう。
そしてヤルバーは彼女が眠りについたことを確認すると、指笛を吹いて白い鳥を呼び寄せ、そのくちばしに手紙を咥えさせると、「正剣兵団のタレス様へ」と囁いて夜空へそれを放った。
「選択の時、ってことか……」




