【幕間】祖父と孫
皆は覚えているだろうか。
囚われの祖父、シュウゼンを救い出すために、姉に似た人形、ウロモモとともに牢屋へ向かったタロウのことを。
彼は再会したその場で、亡くなったと聞かされていた姉が実は奴隷商に連れて行かれてしまったことを知った。
そして負傷してしまったウロモモをシュウゼンに治療してもらったところからこの話は始まる。
「…よし、治ったぞ」
腕の中で眠ったように目を閉じているウロモモをタロウに見せ、ニカッと笑うシュウゼン。
「やっぱり、じっちゃまはすごいや」
そう褒めたあと、「でも」と続けるタロウ。
「じっちゃまの改修屋の腕が落ちてないのはなんで?」
つまり彼が言いたいのは、シュウゼンは牢屋に閉じ込められていたにも関わらず、なぜ腕が鈍っていないのか。ということである。
これに対してシュウゼンは至って簡潔に、「ここでも改修屋の仕事をしているからだよ」と答える。
「仕事…。どんな?」
「最初に言っただろう。私は教皇騎士団の呪具改修係として雇われたんだ」
これを聞いてタロウは辺りにブレストプレートが転がっていることについて察した。つまりこれがシュウゼンの今の仕事というわけだ。
すると、タロウの目線が床に点々と転がるブレストプレートに向けられていることに気付いたシュウゼンは頼んでもいない説明を始めた。
「これは『無我』。大量生産された呪具だよ」
大量生産。この言葉はタロウを尋常でないほど驚かせた。
なぜなら呪具が、人が作り出せる代物ではないと同時に、同じものはひとつとして無いというのが前提条件にあって存在しているからだ。
そしてさらに驚く台詞がシュウゼンの口から飛び出す。
「教皇に頼まれて私が作ったんだ」
なんと彼は自分が呪具を作ったと言う。そんなことはあり得ない、とタロウが否定すると、「正確には少し違うがね」とシュウゼン。
「身体能力向上の効果を持つ呪具の核を分割して胸当てに埋め込んだんだ」
それによっておよそ200人分の量産型呪具、『無我』が出来上がったのだと言う。
これは本来なら称賛されるべきことだ。しかしタロウはそれよりも他の感情を抱く。
「じっちゃまは教皇の言う通りにその改修屋の腕を使ったの?」
今の彼の眼からは怒りの色が見て取れる。いや、それだけではない。その奥に、期待を裏切られたような色相までもが潜在していた。
それについてはシュウゼンも気付いたようだった。
「道具が持ち主を選べないことと何も違わない。改修屋は雇い主を選べないんだ」
諦めた口調の祖父に物申す孫。
「姉ちゃまを連れてかれて、なにも思わなかったの?」
「そんな訳ないだろう」と言いながらシュウゼンが工具箱に手を伸ばす。
これにタロウは、「じゃあ、なんでそんなに楽しそうなんだよッ!」
シュウゼンが手を止めた。しかし口は開こうとしない。
「…楽しいんでしょ、呪具の改修が。誰に頼まれるかなんて関係ないんだ」
じっちゃまは呪具に取り憑かれてるんだよ、と吐き捨てるように言ってウロモモを担ぐタロウ。
「姉ちゃまはボクちんが見つける。じっちゃまとはもう会わないよ」
こんな言葉を残して去っていく孫を、黙って祖父は見送る。
自分以外いなくなった牢屋の中でシュウゼンは再び工具箱に手を伸ばすのであった。




