救いの手
疾斗たちのピンチに突如現れたガンゾーはヤルバーに向かって叫ぶ。
「疾斗を連れてこの沼の中へ。しゃあ、早くッ!」
状況がいまいち飲み込めず錯乱状態にある仲間がいる場合、明確な指示を出すことが最も早くその人物に行動させる方法だということをガンゾーはちゃんと知っていた。
そして、ヤルバーは言われた通りに疾斗を背中に負い、ガンゾーが顔を出した沼の中へと飛び込む。
そうして水中で目を開けると、ガンゾーがある方向を指差してそちらへ泳ぎ始めたので、とりあえずついていくことに。
水平方向に伸びたトンネル状の沼をひたすら泳いでいると、気のせいか、何か甲高い、例えるなら女の人が水の中で精一杯叫んだような音が耳に聞こえてきた。
首を傾げ、何気なく顔を上げた先にぼんやりとした光を見つけたヤルバー。そんな彼が喜び勇んで泳ぎ切ると、そこには。
「ま、また滝かよ〜ッ!?」
以前、商都ヴェミリでも滝から落ちたことがあったのを思い出したヤルバーはつい叫んでしまった。
その間にも彼らは着実に滝壺へと近づいている。そうして。
ドッボォォン
先に落ちたのは前を泳いでいたガンゾーだった。少しも抵抗する気配を見せず、吸い込まれていくように落ちていった。
「次はオレってか…」
ガンゾーを見習い、重力に身を委ねるヤルバー。
ザッバァァン
肩から入水し、目を開けると彼はそこで驚きの光景を目の当たりにすることに。
なんと、以前狛犬使いと戦った際にいた半魚人たちが皆無事で、ヤルバーたちの落下を待っていたのだ。
これに少しばかり混乱したヤルバーは大急ぎで水面まで浮上すると、続々と顔を出した半魚人たちに戸惑い混じりの笑顔を向けた。
「アンタら、無事だったのか!」
すると、最後に顔を出したガンゾーがヤルバーに、「話は後にしろ。今はとにかく俺しゃまについてこい」と岸を指差し、半魚人たちが指示に従って動き出していく。
しかし、「いや…」というヤルバーの声がそれを止めた。
「オレはかわいい花を摘みに行かなきゃならない。悪いが、疾斗を頼んだぜ」
その台詞とともにガンゾーの指した方と反対の岸に泳いで行くヤルバー。
その背中を見つめながらガンゾーは、「相変わらず、よく分からんヤツだ」と呟いた。




