思わぬ再会
「私は一刻も早く昇進しなくてはならないんです。なので降参してもらえませんか?」と、ギアン。
自分が指名手配犯を投降させたとなれば一等星への昇格はほぼ間違いないだろう。なるべく戦いを避けてこの場を収めたいと思うギアンであった。
しかし、「俺にだって譲れないもんはある」と言って徹底的に戦う意思を見せる疾斗。
すぐそこにヨンメルがいる。その事実だけが彼を突き動かしていた。
「ここまで機会を与えても、考えは変わらないんですね…」
「助けを求める子どもがいれば、助けるのが大人の役目だろ」
「私もそう思っているんですがね」
それぞれ別の子どものために戦う2人。どちらかを犠牲にしなければ望みを果たせないのならば、やはりそうせざるを得ないのか。
「……ギアン。お前を倒して、ヨンメルを救う!」
張り詰めていた空気が疾斗の台詞によって破られ、今度は静かな熱量が場を支配しようとしていた。
そんな中、8人に減らされたギアンたちは向かってくる疾斗に対して、右手に持った砂刃を差し向けるポーズで挑発をする。
そのうちの1人に飛びかかり、「てやッ!」と叫び声をあげた疾斗が剣を振り下ろした。
ズシャッ
煙が掻き消えるように1人の分身が崩れ去った。
やっと勘が戻ってきた疾斗は次々にギアンの分身を葬り去っていく。
「くっ、分身4人で勝負は厳しいですね…」
そう、ギアンたちはあっという間に4人に減ってしまったのだ。弱いのか、強いのか。ハッキリしない男である。
だがここで、「まだ、奥の手があるんですよ…」と、ほくそ笑むギアン。いよいよ本気を出すつもりなのだろうか。
そして彼は、いつも通り砂刃を擦り合わせ始めた。
この行動に、再び分身を作り出すのだと勘違いをした疾斗は駆け出し、それを止めようと手を伸ばした。
するとギアンが、「気になりませんか?」と、自ら手を止めて聞いてきた。
「5の倍数以外で砂刃の能力を発動したらどうなるのか、についてですよ」
疾斗はこれにハッとする。てっきり5の倍数でしか技が使えないのかと、そう思っていた。しかしそれは誤りであった。
「今、2回擦り合わせました。さて、どうなるでしょう?」
こんなことを言っておきながら、疾斗の答えを聞く前にギアンは技を叫ぶ。
「『砂弾き』ッ!」
するとその直後、疾斗に向かって2本の砂刃が回転しながら飛んできたかと思うと、彼の両肩を切り裂いて消えていってしまった。
「いッッ!」
あまりの痛みに声も出ない疾斗はその場にうずくまってしまう。
「あらら、そんなことでヨンメル様を救うことなどできるんですかね?」
「……絶対に助ける。そう、決めたんだよ!」
そうして立ち上がろうとしたとき、疾斗は自分の隣にただならぬ気配を感じ、思わず反対方向へ無様に転げた。
「立派な覚悟を持つようになったな。疾斗よ」と気配の主。
恐る恐る疾斗が顔を上げると。
「じ、じいちゃんッ!」
そこには行方がわからなかった彼の祖父が濃紺のローブを身に纏って立っていた。それはまさしくフォルタ教教皇の姿であった。
そんな疾斗の祖父が、「久々の再会で言いたいことも山ほどあるが、」と言いながら片足を後ろに引き上げる。
ドゴォッ
「今はそれどころではないのだ。我が孫、疾斗よ」
喋りながら自分の孫の腹に蹴りを打ち込む祖父が、いったいどこを探して見つかるというのか。答えはここだけだろう。
いや、それはともかくとして、この状況はまずかった。
誰にとってかと問われれば、ヤルバーにとってである。
彼にはもともとある考えがあって、そのためにわざわざ戦いを疾斗に任せたというのに、その頼みの綱が今は地面にぐったりとしているではないか。
そもそも二等星のギアンと一等星のデシャオ、それにファルガスト教皇が加わってしまっては、疾斗をおぶって戦線離脱など成功するビジョンが見えるはずもなかった。
しかし、ピンチのときに限って救いがあるのがお話の世界である。
ジュィン ジュィン ジュィン
なんと次々に半径30センチほどの円形の底無し沼が教皇たちの足元に現れ、彼らはそこへ沈んでしまったのだ。
「な、なんだ…?」
ヤルバーが注意深く観察してみると、もう一つ半径20センチほどの沼が現れ、そこから見知った顔が出てきた。
「ヤルバー、待たしぇたな」
それは紛れもなく、あの半魚人の隊長、ガンゾーであった。




