乱入
ヤルバーがドモドに勝ち、次は自分の番だと意気込んで疾斗が前に出た時だった。
ギュイィィィィン
けたたましいギターの音が皆の鼓膜を震わせる。
爆音が響いた天井の方へ目を向けると、革ジャンにオールバックという“いかにも”な格好をした男が絶賛落下中で、下にはつぎはぎだらけで大きな青いウサギのぬいぐるみが寝そべっている。
「センキューーーッ!」
ぬいぐるみの上に着地すると同時に、ミュージシャンがたまにやる、膝から滑り込みながらギターをかき鳴らすパフォーマンスをする男。
しかしよく見てみると彼のギターには弦が一本もなく、それでも音が鳴ることに若干興味を惹かれる疾斗。
「3等星は10人だって聞いてたんだがな。アレはお前らの助っ人か?」
親指で問題の男を指し、疾斗は突っ立っている3等星たちに尋ねたのだが返答は、「なに、そちらの仲間ではないのか?」だった。
「となると、アレは誰なんだよ…」
疾斗が困ってヤルバーと顔を見合わせていると、「hey, guys. 演奏が終わったら拍手だろ。知らねーのかよ!」と言ってオールバック男は鋭い眼光を飛ばした。
これに眉をピクつかせるヤルバー。
「今のが“演奏”ね…。あんまりうるさいから動物がケンカしてるのかと思ったぜ」
「下手なやつほど上手いやつにケチつける、ってか」
「なにをッ…!」
ヤルバーが食ってかかろうとした時。なにやらモゾモゾと青いウサギのぬいぐるみが動くのが目に入り、思わず動きを止めた。
それに気付き、「早く出てこいよー」とオールバック男が声をかける。
すると青ウサギの腹からほっそりとした腕が。次にショートな緑髪、丸メガネをかけた顔が現れ、それは中学生くらいの女子だということがわかった。
そして最後に赤ジャージを身にまとった体が出てきたところで彼女は口を開いた。
「…みきピロ、感じ悪い」
物静かそうな割にハッキリ言う子だな、と感心したヤルバーは、みきピロと呼ばれたオールバック男が肩を震わせていることに気付く。
「だからその呼び方やめろって何度言えば…」
「なぁ、」とたまらず疾斗が割って入った。
「お前らもしかして、現世の人間か?」
現世。疾斗がもともと住んでいた世界。彼らの服装や言動は疾斗に現世を思い出させることばかりだったのだ。
「お前さんのおかげで脱線しねーで済んだわ」と苦笑いを浮かべたみきピロは腕を組み組みうなづいた。
「その通り。オレたちゃ現世の人間だ」
「な…。どうやってレヌァスンに。いや、何しに来た?」
いろいろと聞きたい疾斗をメガネの少女が制す。
「…話はあとで。まずはコイツら倒さないと」
「珍しくワカツキと意見が合ったな」
現世から来た2人は3等星7人に向かい、戦闘態勢に入った。果たして彼らは疾斗たちにとって敵となるのか味方となるのか。
☆[]
突如として現れた新勢力の2人によって完膚なきまでに叩きのめされた3等星たちが床で伸びている。
「コイツら、本物だぜ…」
それまで言葉を失っていたヤルバーはやっとの思いでそれだけを口にした。
一方、我らが主人公はというと。目の前で起こった、綺麗と言うに相応しい出来事を反芻するかのように何事かを呟いている。
そんな2人の様子を見たオールバック男、みきピロが口を開く。
「自己紹介がまだだったな。オレはスーパーロックンローラーの手塚幹弘だ」と彼は疾斗たちに歩み寄り、手を差し出した。
「ほんで、あっちのメガネっ子がワカツキ。ああ見えて怖え女なんだわ」
最後の方は声を絞って言ったつもりだったのだろうが、もともとの声量が大きいためにあまり意味は成さなかったようだ。
「…みきピロ、聞こえてる」
「Jesusッ!」
さて、どのようなことがあって今に至ったかをそろそろ話すとしよう。時間は今から15分前、みきピロとワカツキが3等星たちを前に臨戦態勢に入った時点にさかのぼる。
「またおもしぇモンが出てきたねっかや」
赤黒い雲に乗ったつり目の騎士、ショアレがよく分からない言葉を発しながら前に出てきた。するとその後ろから女騎士の陽気な笑い声が。
「きゃはっ、ショアショアの言ってること全然分かんないぷぅ」
彼女は水色と桃色が混じった髪をツインテールにし、上と下が繋がった作業服のようなものを着ていて、その所々に擦り切れて出来た穴が目立っている。
「セップ、お前さんらて何言うてるか分からん時ぐらいあるねかて」
ショアレのこの発言に対し、セップと呼ばれた女騎士は不満の色を見せた。
「そんなことないぷぅ。タポタポはどう思うぷぅ?」
セップの隣に立っていたせいで急に意見を求められることになってしまった騎士は、「どうでもいい」と率直に答えたあと、「それより俺様のダジャレを聞け」と真顔で言い放つ。
ここまでの流れを見ていてヤルバーがひとつつ疑問に思った。
「ショアレが“ショアショア”なら“タポタポ”の元の名前はなんだろ〜な?」
疾斗も一緒になって考えていると、再び耳を劈くようなギターの烈響が轟いた。
「お前さんら、このスーパーロックンローラーを差し置いて喋ってるなよ!」とみきピロが叫びをあげる。
「きゃはっ。セプセプ、あの人好きかもぷぅ!」
今にも飛び上がらんばかりの勢いでセップがみきピロに駆け寄ると、彼は、「まずはオレの神具、『無弦』に酔いしれる環境づくりだ」と弦のない自分のギターをかき鳴らし始めた。
「『無弦の調べ』ッ!」
本来なら音など鳴るはずもない彼のギターからはギュイィィィィンという独特の音が響く。
しばらくは皆、呆気にとられて気にも止めていなかったが、ある時点からふと異様に思えることが。
ギターの音が“聴こえすぎる”のだ。
それまで聞こえていた雑音、会話の声、その他全てが聞こえない。かわりに彼らの耳に届くのは乱雑な弦楽器の音だけ。
そんな状況にいつしか皆は不安を煽られていた。
しかしそれを他の者に伝えようにも、自分が発したはずの声すらも聞こえない。ましてや自分が喋ったことに気付き、反応したらしい相手の声も。
そのせいで3等星たちは気が付けなかった。背後に迫る綿に。
「…殿、『綿ぐるみ』をお願い」
赤ジャージのメガネっ子、ワカツキが自分の神具である『殿』という青いウサギのぬいぐるみにそう言うと、殿の背中から伸びた7本の純白の綿が3等星たち7人をそれぞれ取り込んだ。
「ライブはfinishだな」
みきピロが無弦を弾く手を止めると、その瞬間に皆の耳は正常に戻った。
「ワカツキ、そこに転がったヤツらの空気穴だけ開けとけよ」と指示を出したあと、みきピロは疾斗たちに向き直る。
「それじゃ、ちょっくら話でもするか」
余裕そうなみきピロやワカツキの表情を見て思わずヤルバーがひと言。
「コイツら、本物だぜ…」




