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贄の運び屋  作者: ニシキメサイコ
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機転

チャキン


不意にヤルバーが金喰蟲を鞘に収めた。


「さあ、続けようぜ」


前方では無数の刀が群れをなして踊っているにも関わらず、ヤルバーはいつものにやけ顔でドモドに手招きをする。


何か勝算があっての行動にしても常人には真似のできない芸当だ。


「それほど死にたくば願いを叶えてしんぜよう!」


そう言ったドモドが人差し指で円を描いてからヤルバーの方に手を突き出すと、円状に並んだ刀が回転しながら飛んでいく。


触れれば切れる円盤と化したそれは様々な軌道を描きながらヤルバーを襲った。


十本程度からなる直径の比較的短い円盤なら横へ避けることも可能だったが、飛んでくるもののほとんどは五、六十本程度からなる円盤ばかりで上に跳ぶか、屈(かが)んで避けるほかに術がない。


そのせいでヤルバーの体力は減る一方であった。


「なかなか良いのが来ないね〜!」


何を待っているのかは分からないが、ヤルバーはそう言いながらひたすら避け続ける。


そんな彼の様子を見て怪しく思ったドモドが何とも分からない企みを阻止するために、ヤルバーのすぐ近くで浮いていた円盤を一直線に彼めがけて飛ばした。


「これこれ、こういうのだぜ!」


意気揚々、刃のなくなった金喰蟲の鍔で円盤を食い止めるヤルバー。しかし尋常でない速度で回転する円盤を一人で受け止め切れるかといえば答えは否と決まっている。


案の定、ヤルバーは弾き飛ばされ、金喰蟲はさらに後方の壁に柄から突き刺さってしまった。


「貴公が何をする気だったかは存ぜぬが、得物(えもの)を失ってもなお何かができるというならばぜひ聞かせてもらいたいものだ」


「いや、オレができることはもうないぜ…」


弾き飛ばされたときの衝撃で右肩を痛めてしまったヤルバーはそう言いながらなんとか立ち上がる。


「さようか…。ならば為(な)す術(すべ)なく死ねッ!」


ギュンッ


数多の円盤が再びヤルバーめがけて飛び始め、ヤルバーは逃げる態勢に入った。


ただここで気になる点が。


彼の逃げ方がなぜかバックステップなのだ。背中を見せて全速力で走れば良いのに、と見た者なら皆一様に思うだろう。


しかし、勝ち目のない戦いに頭がおかしくなったのか、と疾斗を含めたその場の一同が思いかけたその時。


「…10秒、経ったな」


避け続けるだけだったヤルバーがこう言った瞬間、ドモドの腹は刃に貫かれていた。何が起きたのか見当もつかないドモドは血を吐きながら倒れてしまう。


「そこのアンタ、倒れたオッサン治療できる場所に連れて行ってくれ」


ヤルバーにそう言われた1人の冴えない騎士がドモドを担いで退場していく。


ところで、察しの良い人はもう気付いているかもしれないが、どうやってあのピンチからヤルバーは逆転したのかを説明するとしよう。


まずはヤルバーがドモドに、『その刀を千本には増やせないよな』と煽りをかけた時だ。実はこの無謀としか思えない行動からヤルバーの作戦は始まっていた。


次に、一直線に飛んできた円盤を受け止め、ヤルバーが弾き飛ばされた時。この時ヤルバーの手から離れた金喰蟲が“柄から”壁に突き刺さったのだが、これも彼の計算通りだった。刃があるべき方向にはドモドがいたのだ。


そして、『自分ができることはもうない』というあの言葉。あれは、もう準備は終えたから自分ができることはもうない、という意味だったのだ。


あと疑問を残すところといえば、バックステップだろうか。あれは金喰蟲が静止している10秒間、絶えずできる限り多くの刀を視界に入れておくための策だった。


こんな準備があり、10秒後。『視界に入っていた金属と同じ量の刃』がついた金喰蟲の剣先は約千本の刀の分伸びていき、最終的にドモドを貫いた、というわけだ。


「あ〜っ、頭使ったら疲れちまったぜ」


ドスンと腰をその場に下ろしたヤルバーは疾斗に向かって、「負けるなよ?」と言った。

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