切れ者
何やらゼトラの呪具への対抗策を編み出したらしいヤルバーに周囲の注目が集まる。
そんな視線に気付いて、「いや〜、オレって見られると固まっちゃうんだよね!」と顔をパタパタと煽ぐヤルバー。
「それで、」とゼトラが気に入らなそうに口を開く。
「貴様は私に『倒れてもらう』と言ったが、それは攻略法がわかったということか?」
「さあね。試してみたらどうだい?」とヤルバーは不敵な笑みを浮かべて手招きした。
「言われなくてもッ!」
バッと跳び上がり、上体を右に捻って拳を繰り出そうとするゼトラ。彼が狙っているのはヤルバーがこの攻撃を避けることだ。そうなれば彼の呪具、『天邪鬼』の効果により必ず攻撃を当てることができる。
そして、これまでのヤルバーならゼトラの見込み通り、どこかしらの方向へかわすはずなのだが今回の彼はひと味違った。
なんとその場から一歩も動かないでいるのだ。それどころか腕、首すらも微動だにしていない。
「気でも触れたか、無頼漢!」
ゼトラの拳がヤルバーに迫る。しかしあと数センチというところでその攻撃は止まった。
「な、なぜだ!」
めげずに蹴りをヤルバーの肋骨めがけて撃ち込むゼトラ。だがまたしても攻撃は決まらず、彼の脚は空中で静止してしまう。
これに、思った通り、と言いたげなヤルバーが話し始めた。
「やっぱりな。アンタの呪具は目に見える“相手の行動”を基準に、見えない意思を判断してるのさ」
「なに。そ、そうなのか!」
すこし間抜けな反応を見せたゼトラはそれをごまかすために大袈裟な咳払いをし、「では私の攻撃が当たらなかったのはどういう理屈だ!?」と尋ねる。
「簡単さ。オレが動かないということはアンタの攻撃に自ら当たろうとしているとみなされる。そしてアンタの呪具は相手の意表を突く能力だから…」
「攻撃が貴様に当たらないように止まった、ということかッ!?」
そゆこと、とヤルバーが笑う。
謎が解けたゼトラは頬を紅潮させ、「そんなことならこんな呪具にもう頼らん!!」と『天邪鬼』を投げ捨ててしまう。
「…それを待ってたんだよね〜」
そう言った彼の手には長さ20センチほどの刃がついた金喰蟲が。そうしてヤルバーはピョーンピョーンと高めのサイドステップをし始める。
「華麗斬技・鳥…」
すると今度はその動作をしながら素早く前進、つまりジグザグにゼトラに向かって突っ込む。
右か左か。どちらから攻撃が来るのかゼトラが考えているうちに金喰蟲は彼の懐に迫っていた。
「『烏跳び』ッ!」
スパァッ
通り過ぎざまに剣が走り、その切っ先はゼトラの胸部を横一文字に切り裂いた。
「ぐわぁぁッ!!!」
悲痛な叫びを上げて膝をつくゼトラは慌てて胸を押さえるが、触ってみて気付いたことが。
「傷が…ないだと?」
何が起こったのか理解ができずに振り向くと、眼前に、ヤルバーの構える金喰蟲が血を今か今かと待ちわびていた。
「こ、降参だ!」
たまらずゼトラが両の手のひらを高々と掲げる。こうして第一戦が幕を閉じたのであった。




