天邪鬼
「それで、そっちの先鋒は誰かな?」
三等星たちと決闘することになり、「最初はオレに任せな」と疾斗に胸を張ったヤルバーが品定めをするように目の前の騎士たちを眺める。
「私が出よう!」
腰まで届きそうな金髪をたなびかせ名乗り出た1人の騎士。肩や肘、膝に鉄製の防具を身につける他に変わった点は特に見受けられない。
「貴様のような軽薄そうな男はこの私、ゼトラ・ユイデンシスが成敗してくれる!」
ゼトラと名乗った騎士はそう言うと両手を開き、天に向かって伸ばした。これが彼のファイティングポーズなのだろう。
「おいおい。オレが軽薄そうなのは否定しないが、アンタのような正義漢ぶったヤツが1番信用ならねぇと思うぜ?」
こんな風に相手を挑発したヤルバーが鞘から金喰蟲を抜き、手前に構える。
「どうとでも言え。この無頼漢め!」
フンと鼻で笑ったゼトラはジリジリと距離を詰め始めるが、そんな彼に、「申し訳ないんだけど、あと7秒だけ待ってくれないか?」と左手を顔の前に持ってきて頼むヤルバー。
「この期に及んで『待て』だと。やはり貴様には正義の鉄槌を叩き込む必要があるようだ!」
こう叫ぶと、ゼトラは思い切りヤルバーに向かって走り出した。
「まあ待ってくれるとは思ってなかったけど」
そう言いながら、正面から突っ込んでくるゼトラの第一撃を右に避けようとヤルバーが身体を傾けた時だった。
フッ
一瞬もゼトラから目を離さなかったのに目の前から彼は消えた。そして次の瞬間。
ドゴォッ
ヤルバーの右頬に凄まじい衝撃が。先程まで彼の目の前にいたゼトラが一瞬でヤルバーの右側に移動して頬を殴ったのだ。
3メートルほど吹き飛ばされ混乱気味のヤルバーは、痛む頬を押さえながら状況を整理しようとしている。
「今のがアンタの呪具の力ってことか…」
呪具の効果は瞬間移動で間違いない。しかしそんなものをどうやって防ぐというのか。
「どうした。立たないのか!」
第二階層にゼトラの雄叫びが響く。そして彼は第二撃を繰り出すために再び突っ込んできた。
「くッ!」
当然かわさなければいけないヤルバーは後方へ飛び退った。
しかしまたしても。
ズガッ
今度は背後からゼトラの拳がヤルバーを襲う。
思い切り背骨を殴られたヤルバーは、「な、なんで…だ?」と膝をついた。しかしそれでも彼は途切れることなく思考を続けている。そして、このゼトラという相手の攻撃について不可解な点を見つけた。
「アンタさ、瞬間移動ができるんならなんで突進してくるんだ。最初からソレを使えばいいじゃないか?」
このヤルバーの発言に、まさかそこに気付くとは、と驚きの表情を浮かべたゼトラは直後に笑い出す。
「ハッハッハ。初めはただの無頼漢と思ったが、どうやら貴様という男を見誤っていたようだ!」
「認めてもらえて嬉しいが、あいにくオレが興味あるのはアンタの能力だけだぜ」
そう言って、ヤルバーが口内に溜まった血をペッと吐き出した。
「そこまで気になるのなら冥土の土産に教えてやろう。私の呪具、『天邪鬼』の能力を!」
ゼトラは服の胸元をグイと下げ、銀色に光り輝くペンダントを見せながら説明を始めた。
「この『天邪鬼』は相手の“意表を突く”ことができるのだ!」
相手の意表を突く。この言葉にあまりピンときていないヤルバーを見てゼトラが続ける。
「貴様が先ほど私の第一撃を右にかわしたとき、貴様は攻撃は正面から来るもので、右からは来ないはずだと思った。だからその意表、つまり右から攻撃をするように移動したというわけだ!」
つまり彼の説明だと、瞬間移動は能力の性質上必要な“おまけ”でしかないということらしい。
「それがわかったところでオレには何もできない。そう思って話したのか?」
このヤルバーの問いにゼトラは、「そうだ!」とうなずいて答えた。
「そうかい。ならアンタにはオレに能力を明かしたことを後悔しながら倒れてもらうぜ」
相変わらずのニヤケ顔にすっかり戻ったヤルバーは秘策を思いついた様子であった。




