【幕間】祖父と孫
「うぅ、重い…」
と、ウロモモを背負いながら通りを歩くタロウがボヤいた。
「あ、ごめんね。ウロモモが重いっていうんじゃなくて、そのあの…」
思い出したように弁解しようとしたタロウだったが、本人の耳には届かないことを思い出し、ひとり虚しい気持ちになってしまう。
そうこうしているうちに騎士が話していた牢獄らしきものを見つけたタロウは木のドアを開け、中に入ると興味本位で檻の中を覗いてみるが、手前の部屋3つは空だった。
「でもなんで技術者が牢屋なんかに…」
タロウがそう呟くと、「その声は、タロウか?」という年配の声が、奥から3番目の部屋から聞こえた。
これにタロウは驚く。それは聞きまごうことのない声だったからだ。
「じっちゃま!」
急いでその部屋に駆けつけるタロウ。そこには相当くたびれた様子の丸眼鏡の老人がいた。
「やはりタロウだったか…。無事でよかった」
老人の名はシュウゼン。タロウの実の祖父であり、人形のウロモモを作った人物だ。
シュウゼンの部屋の中ではブレストプレートが散らかっていて、その尋常でない様子にタロウは質問せずにはいられなかった。
「この鎧はなんなの。ていうかじっちゃまは3ヶ月もなにしてたの?」
これに穏やかな面持ちで、「順を追って話すから」と言って聞かせるシュウゼン。
「きっかけは4ヶ月前のことだった。突然教皇の使者が来たかと思えば、『騎士団の呪具の改修係として仕えて欲しい』と言ってきたんだ。強制でもないようだったからその場は断った」
ここで一息つく。
「その何週間後かにまた使者が来た。今度は口調が違ったよ。『今すぐに大聖堂に来い。従わなければお前の孫娘を商都ヴェミリの奴隷商の元へ連れて行くぞ』と。少し待ってくれるよう私は頼んだ。そうして悩んでいるうちにミウロは、おまえの姉は連れて行かれてしまったんだ」
「ちょっと待ってよ」と納得がいかない顔でシュウゼンに尋ねるタロウ。
「姉ちゃまは足を滑らせて崖から落ちたんじゃないのっ?!」
「すまない。私はおまえに嘘を吐いた。かわいい孫娘よりつまらない工匠の意地を取ってしまったんだ」
シュウゼンが握りしめた拳は静かに震えていた。
「じゃあなんでじっちゃまは今ここにいるの。ここに来るんだったら姉ちゃまが連れて行かれる前でも良かったじゃないか!」
「おまえだよ」
思わず、「え?」と聞き返すタロウ。
「『今度はもうひとりの孫も連れて行くぞ』と脅された。これも私は悩んだ。しかしミウロに加えてタロウまでもが手の届かない場所へ行ってしまうことは想像しただけで耐えられず、やむなく教皇に従うことにしたんだ」
シュウゼンによると、自分がいなくてもタロウが寂しくないようにとタロウの姉であるミウロそっくりのウロモモを作って出て行ったのだという。
ここまで話をしたシュウゼンはようやく横たわるウロモモに気づいた。
「いったい何があったんだ?」
「実は…」とこれまでの一部始終を説明したタロウは最後に、「ここにある道具でウロモモの治療がしたいんだ」と付け足した。
「それはもちろんだが、おまえの話だと鍵の在り処がわかるそうじゃないか」
どうやらシュウゼンは先に牢の鍵を開けて欲しいらしく、タロウに向かって必死に手を合わせている。
「そうだった」と思い出したタロウは騎士から手に入れた、鍵の在り処を記した地図を頼りに探し始めた。
「赤い丸はここだ。あ、あった」
見つけた鍵で牢を開けると、やっと解放されたシュウゼンは首をコキコキ鳴らしながらウロモモに近づく。
「どうれ…。ふむ、大したことではないな」
シュウゼンがウロモモの砕けた右肩を見てそう言ったことに対し、懐疑的に思うタロウ。
「じっちゃまは長い牢獄生活で職人の目をなくしたんじゃないの?」
「何を言っているんだ。ここを見なさい。打撃だけでは完全に破壊できないように特殊繊維を通してある。だからあとは…」
「だからあとは外側を補強すればいいのか!」
美味しい台詞を持って行かれたことよりもタロウがウロモモの肩の仕組みについて見抜けなかったことに対して残念に思うシュウゼン。
「それじゃあ改修を始めるとするか」
モヤモヤした気持ちのまま作業を開始する職人、シュウゼンとそれを見守る孫のタロウ。
2人の再会の時はこうして過ぎていったのであった。




