バトンタッチ
頑強符による紅色の光に包まれる闇ハヤトとウロモモ。対峙する2人の間には張り詰めた空気が漂い、いつ緊張の糸が切れてもおかしくない状況であった。
そんな中、ヤルバーから闇ハヤトを気絶させるように助言されたウロモモはどうしたものかと思案をしていた。
「脳震盪ヲ起こすたメに頭部に強い衝撃を加えルことガ必要…」
ウロモモは自分の右腕が機能しないことを十分理解していて、そこを踏まえた上でどのように立ち振る舞うべきか、考えを巡らせているのだ。
しかし荒ぶる闇ハヤトが悠長に待ってくれるわけもなく、「立ってるだけじゃ俺は倒せねぇぞ!」ともの凄い勢いで彼女に接近戦を仕掛けて来た。
左ストレートを繰り出した勢いを利用して回転、右の裏拳をウロモモの右肩に炸裂させた。
「キマったな、こりゃ」
ニヤリと笑う闇ハヤト。
頑強符で鋼鉄のように強化された彼の拳は、ウロモモの肩を砕くには十分過ぎる威力を有していた。
しかしこんな攻撃を受けてもなお、ウロモモは宙ぶらりんになった右腕をかばいながら思考し続けている。
「…手を硬化シた状態デも動けるコトから、効果範囲は全身ではナく任意の部分ダと推察。範囲の切リ替えに要スる時間は不明。もウ少し検証スる必要ガあると判断しまシた」
「なぁにボソボソ言ってんだよ」
「そレではこちらかラ」
そう言って走り出したウロモモはグッと闇ハヤトとの距離を縮めると、彼の顔面を狙って左ストレートを繰り出した。
狙われた闇ハヤトはとっさに右腕を硬化させてガードをする。
次いでウロモモが彼の左膝めがけてローキックをすると技は驚くほどすんなりと決まり、闇ハヤトは膝からグラッと倒れ込んでしまう。
「…なルほど。切リ替えには最低デも2秒は要するヨうですネ」
これがわかったウロモモが次に取る行動は決まっていた。
彼に攻撃をし、腕か胴体を硬化させたあとで2秒以内に後頭部を狙うのだ。
「ワタシならデきる」
「うん。ウロモモならできる」
温かい言葉につい振り向いてしまったウロモモ。
ビュッ
気付くと彼女は天井にへばり付いていて、そこから床へ向かって落ちていく。
「ウロモモぉぉッ!」
タロウが叫ぶ。
しかしあと少しで激突かというところで滑り込んだヤルバーによってなんとか事なきを得ることができた。
この数秒で何が起きたかというと、ウロモモが振り向いた隙をついて闇ハヤトが頑強符から疾走符に切り替え急接近、直後に彼女を真上に蹴り飛ばしたというわけだ。
「ごめんな、ウロモモちゃん。あとは任せてくれよ」
ゆっくりと彼女を床に寝かせるヤルバーの体には、もう先ほどまでの力が入らないといったような異変は現れていなかった。
そうして立ち上がったヤルバーはゆっくりと闇ハヤトの方を向く。
「アンタは何者なんだ?」
「俺か…。俺はハヤトじゃないのか?」
いつものヤルバーなら、「質問は質問で返すもんじゃないぜ」なんて言っていただろうが、今の彼はとてもそんなことをいう気分ではないらしい。
「今のアンタが本物のハヤトだとしたら、いつものハヤトは偽物ってことかい」
「さぁてな。しかしどっちかが偽物なんだろうよ」
「そんなことより」とファイティングポーズを嬉々とした表情でとる闇ハヤト。
「いいぜ。アンタよりいつものハヤトの方がオレは好きなんでね」
この言葉をヤルバーが言い終えた瞬間、2人は走り出した。既に十秒間固定しておいた金喰蟲と瞬時に変化した風斬が2人の間で火花を散らす。
「さっきみたいなショボい突きは勘弁だからなぁ?」
「じゃあこんなのはどうだい?」
飛び退いて闇ハヤトと距離をとり、剣を掲げた後、スッとその手を胸の高さまで落とすと律儀に技名を唱えるヤルバー。
「華麗斬技・鳥…。『鳥柱』」
そうして地面スレスレという言葉がぴったりなほどの前傾姿勢で間合いを詰めていく。闇ハヤトの真下まで来たかというところでバッと飛び上がると同時に斬り上げた。
この斬撃を防ぐのに手一杯になってしまった闇ハヤトは、頭上で蹴りを繰り出そうとするヤルバーの気配に全く気付くことが出来ずにまんまと蹴り飛ばされてしまう。
当たりどころが良かったのか悪かったのか、倒れ込んだ彼の意識は朦朧としていた。
そんな消えかけの意識の中で最後に残した一言。
「俺は、デュリオ……ス」




