闇ハヤト対ウロモモ
「…なんだ、今の突きは?」
怒りにうち震えた声で、闇ハヤトがヤルバーに尋ねる。
「お前わざと外しただろ」
バレたか、とヤルバーが舌を出した。
「その体はハヤトのだからな。傷つけるわけにはいかないのさ」
余裕そうな体を装ってはいるが、彼の額からは滝の如く汗が流れている。闇ハヤトの気迫に当てられてか、連戦の疲労からなのかは知れないが。
しかしそのおかげで彼は命拾いをすることに。
「その様子じゃ俺の相手はつとまらねぇな。じゃあ、次は“あっち”にしようか…」
そう言って闇ハヤトが振り向いた先にいたのは、たった今、自分の周囲を取り囲んでいた20人弱の星無しを素手で葬り終えたばかりのウロモモだった。
「この階層の騎士の全滅ヲ確認しまシた」
「やっぱりウロモモはすごいや」
こんなことを言っている2人の方へ闇ハヤトが拍手をしながら近づいていく。
「お見事、お見事。命の無い呪具の割にはよくやるじゃねぇか」
今度はその技を自分に向けろ、とウロモモに迫る闇ハヤト。
「なんなの、チミ。なんでそんな言い方すんの?」
「虹彩ノ変色ヲ確認。どウやらハヤトさんは何らかノ存在に乗り移らレたようでス」
闇ハヤトのまるで鮮血に染まったかの様な眼を見たウロモモは、タロウにもう少し下がるように言い聞かせ、彼に向き直った。
「今の貴方は立ち方、呼吸から違いマすね。全てガ戦闘ヲ目的としてイます」
「なんでもいいが、その耳に障る喋り方どうにかなんねぇかな」
あまりに非情な闇ハヤトの発言にタロウが思わず飛び出そうとするのを、いつの間にか移動していたヤルバーが制した。
「やめろ、タロウが出てったらウロモモちゃんがあそこに立ってる意味がないだろ」
「じゃあ、ウロモモを助けてよっ!」
「そうしたいのは山々だけど、アイツの気迫に負けて足に力が入らないんだ。情けない限りだぜ」
申し訳なさそうにしゃがみ込むヤルバー。
「こうやって、オレはまた女の子が泣くとこを見てるだけなのか…?」
そう呟いて彼が拳を握りしめた途端に床が揺れた。闇ハヤトとウロモモが戦い始めたのだ。
「そんな蹴りじゃ肋骨一本が関の山だな、呪具の姉チャンよ?」
ウロモモの凄まじい飛び蹴りを紙一重で交わした直後、闇ハヤトはコツコツと自分の肋骨を中指で叩いて挑発してみせる。余裕綽々といったところか。
「挨拶代わリの蹴りデ判断されテは困りマす」
「そうか…。じゃあ挨拶は返えさねぇとなぁ」
タッタッタッと軽いフットワークで回転しつつウロモモとの距離を急激に縮めた闇ハヤトは、その勢いを利用して後ろ回し蹴りを繰り出す。
ズダァァアン
両腕でガードしたウロモモはその体勢のまま後方へと吹き飛ばされていく。
「損傷箇所ヲ最小限に…。ワタシならデきる」
「おいおい、んなこと言ってっけど右腕はもう使えねぇだろ?」
それで最小限かよ、と嘲笑う闇ハヤトに対し真顔で答えるウロモモ。
「ハヤトさまノ損傷箇所を、デす」
一瞬驚いた表情を見せた闇ハヤトだったが、すぐにいつもの人を威圧する顔に戻り、「俺を傷つけねぇように気ぃ遣いながら俺と戦うってか。どうやって?」と尋ねた。
「気絶させればいいのさ…」
ウロモモが振り返ると、しゃがみ込んだヤルバーが自分の後頭部に手をやりニヤッと笑う。
「ヤルバーさまの意図を十二分に理解しました」
そう言ったウロモモは腰をグッと落とし、左腕を前に構えて戦闘体勢を取った。
「まだまだもてなしてくれるとはなぁ。泣けてくるよ、ホント」
下手な泣き真似をしたあと、頑強符を掲げる闇ハヤト。周囲に紅色の光が満ちる中で彼だけが不気味に笑っていた。




