華麗斬技・花
「け、剣が2本になったところで…!」
ヤルバーから見て右方向から1人の騎士が飛び出して鋭い斬り上げを繰り出してきた。
それを皮切りに後方、前方から1人ずつ切りかかってくる。
全てをかわしながらヤルバーは、2等星や3等星はどこだろうと考えていた。
「俺たちは上の空かよっ!」
そう叫んだ騎士は、味方の剣を一本借りて二刀流で対抗しようとしている。
「まぁ、あとで吐かせりゃいいことか…」
割り切って目の前の相手に集中しようとした時だった。
ガシッ
いつの間にかあの大柄な騎士がヤルバーの背後に回り込んでいて、彼を羽交い締めにしてしまったのだ。
「ぐぅあぁぁぁ…!」
ヤルバーの後頭部で組まれた両手が彼の首を前に押し出す。
「いい気味だなァ。さっきは好き勝手なこと言ってたくせによォ!」
なおも悶絶しているヤルバーはついに手に力が入らなくなり、両手に握っていた武器を手放してしまう。
勝った。
騎士たちが一様に勝利を確信したその瞬間、信じられない事が起こった。
なんとヤルバーが落下途中の金喰蟲を足で操って、自分を拘束している騎士の二の腕に突き刺したのだ。
当然拘束は解け、ヤルバーは崩れるように地に落ちた。
「クソッ、痛えなァッ!」
腕から金喰蟲を引き抜いた騎士はそのままそれを地に伏すヤルバーに刺し返そうと振り上げる。
その時に生じたわずかな隙に、ヤルバーは騎士の足めがけて放った隠し刀は見事命中し、相手は鈍い呻き声を上げて膝をついた。
「お、お前ら、なに見てやがる。いいからどんどん攻撃し…へゔッ!?」
喋っていた騎士はもの凄い勢いで宙を飛んできた別の騎士と激突し、そのまま気を失ってしまう。
なにが起こったのか訳の分からない他の騎士たちは、人が飛んできた方へ目を向けた。
すると人集りの中心から1人、また1人と騎士が吹き飛ばされているではないか。
見ていた者たちは誰の仕業か見当もついていないようだが、ヤルバーだけはピンときている様子だ。
「ま〜た闇ハヤトが出たか」
彼がそう呟く間にも絶えず騎士たちは吹き飛ばされ続け、ついには疾斗の周りに1人の騎士も居なくなり、かわりに気絶した者たちの山ができていた。
「ハァ、ハァ…。俺はまだまだ暴れたりねぇんだ。もっと来いや」
これまでは、闇ハヤトになると例外なく目から光が無くなっていたのだが、今は眼に煌々とした赤が宿っている。
周りに蹴り飛ばす相手がいなくなった闇ハヤトは闘争に飢えた表情を浮かべながらヤルバーの方へズカズカ歩み寄ってくる。
「お前がこの中で1番楽しめそうだ」
あまりの気迫に身構えるヤルバーだったが、闇ハヤトの発言が癪に障った騎士たちがヤルバーより先に動き出した。
「俺らを無視するな、贄の運び屋ッ!」
20人ほどの星無しが一斉に飛びかかる。
そんな中退屈そうにあくびをしながら闇ハヤトが疾走符を掲げ、きれいな垂直跳びを魅せた。
その高さは悠に4メートルを超え、天井に頭がつきそうなほどだ。
「来るぞ…」
そうヤルバーが呟くと同時に、闇ハヤトは疾走符を解除して代わりに結束符を取り出した。
「結束符、『金環縛り』ッ!」
闇ハヤトのセリフのあと、彼の手から黄色い光の輪が現れ、グンと広がったその輪はあっという間に周囲の騎士を縛り上げてしまった。
次は自分かと腹を括ったヤルバーがまっすぐ闇ハヤトを見据える。柄に似合わず真剣な顔で。
シュタッ
着地をした闇ハヤトは結束符を解除、そしてまた別の札を構えた。
「風斬」
例の如く彼の手の中で札が短剣に変わる。
一方のヤルバーは、「返してもらうぜ」と言いながら、先ほど気絶した騎士の手から金喰蟲を取り返し深呼吸をひとつ。
「この技は一撃必殺の技だが、アンタにとっちゃ屁でもないんだろうなぁ」
「御託はいいから見せてみろよ、お前の技をよォ!」
「いいぜ。華麗斬技・花…」
その言葉と共にスッと右手に持った金喰蟲を引くヤルバー。
「『一輪刺し』!」
ズバァッ
まっすぐ突き出された切っ先は虚しく空を刺す。
「やっぱり、屁でもないだろ?」
笑みを浮かべるヤルバーは何かを企んでいるように見えた。




