好青年
フォルタール大聖堂に乗り込むと決めた夜が明けて、気付けば昼下がり。
ヨンメルの出発が明日に迫っていることなど少しも知らない疾斗とヤルバーは、タロウたちを宿に残して大聖堂の周辺を見てまわっていた。
「おいハヤト、ちょっと見てみろよ」
相変わらずのニヤニヤ顔をしながらヤルバーが手招きをする。
呼ばれた方へ疾斗が行ってみると、そこにはちょっとした人集りができていた。
小声で謝りながら人を押し除けてその中心を覗く疾斗。注目の的になっていたのはどうやら大きめの看板のようだった。
そこには何人かの似顔絵が貼り付けてあり、もちろんほとんどが見覚えのない顔だったが、その中にひとつだけ見知ったものが。
「…俺だ」
その場に居合わせた全員が声の方に顔を向ける。一気に皆の注目の的が看板から自分に変わったことに疾斗が動揺していると、
「こいつ、お尋ね者だ」
と誰かが言った。
すると他の者もそれに呼応して、「たしかにそうだ」とか「贄の運び屋だってよ」なんてことを口々に言い始めた。
そうして、これはどうしたものかと疾斗とヤルバーがあたふたしていた時だった。
「どうしたんですかーっ?」
こげ茶色のマントを羽織り、細身の長剣を腰からぶら下げた青年が集団に向かって声をかけた。
年齢は17、18歳といったところか。襟足が短く、全体的に爽やかな印象の青年だ。
住人たちは彼の姿を認めると、ホッとした様子で疾斗の方を指差した。
「ユーくん、この掲示板に貼られたお尋ね者がここにいるんだよ」
“ユーくん”と呼ばれた青年は疾斗に近寄り、その顔をまじまじと見つめ、そして首をかしげた。
「似てるけど、この人は違いますよ」
これを聞いた人々は、「なんだ違うのか」とこぼしながら方々へと散って行く。
彼の信頼はよほどのものなのだと側から見ていたヤルバーは感心した。
「お尋ね者に似ているだなんて大変ですね」
同情で言っているのかなんなのかは知れないが、彼の表情からして本気で疾斗と似顔絵の男は別人物だと思っているらしい。
「ありがとう」
君のおかげで捕まらずにすんだよ、とはさすがに言えない疾斗だが、感謝だけは伝えておこうと考えたのだ。
「いえいえ。星無しにはこれくらいしかできませんから」
星無し。彼もまた教皇騎士団の1人ということだ。
ゼントの話では騎士団は昇進しか考えていない連中の集まりのように聞こえたが、その中にもこれほど真面目な者も確かにいるという事実が疾斗をなんとも言えない気持ちにさせた。
「あの…どうかしました?」
青年に声をかけられて我に帰った疾斗は笑ってみせる。
「いや、親切な人だなって思ってな」
君はいい騎士になれるよ、と青年の肩を叩いた疾斗はヤルバーと共に宿へと戻って行った。
残された青年は無邪気に微笑み、「初めて褒めてもらえた…。あの人のためにも早く贄の運び屋を捕まえたいな」と意思を固めるのだった。




