シンギュラリティ
疾斗たちが戯れあっていたちょうどその頃、隣の部屋のタロウはウロモモに背を預ける形で彼女と同じ布団に入っていた。
「ねえ、ウロモモ…」
他人の前では見せない寂しげな表情のタロウ。
「今だけ、少しだけでいいから、姉ちゃまみたいに抱きしめて…」
言われたウロモモは手を彼の胸にまわし、「タロウ、イい子イい子」と彼の耳元でささやいた。
しばらく黙っていたタロウだったが、彼女の硬く温度を持たない腕や胸が当たるたびに鼻息が荒くなっていき、遂には、
「やめてよ!」
と、彼女を跳ね除けた。
「タロウ、さま?」
床に転がったウロモモが彼の方を見ると、その顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「こんなんじゃない。姉ちゃまは、こんなんじゃ……」
頭をかきむしりながら嘆くタロウ。
「ウロモモは姉ちゃまじゃない、そんなの分かってたよ」
でも、と彼は続ける。
「そうなんじゃないかって、思う時が何回かあったんだ。ただ見た目が似てるからじゃなくて、何か…」
話しているところにガシッと抱きつくウロモモ。
「申シ訳ありマせん。ワタシが、失敗作なバかりに、タロウさまを泣かセてしまいマした」
自分を抱く腕に力が入っていることにタロウが気付き、再び、「やめてよ」と言った。
今度は、優しく。
「違うんだよ。ウロモモは失敗作なんかじゃない…」
そう言った彼の脳裏にヤルバーから聞いた言葉が浮かぶ。
『人前じゃ絶対に失敗作だなんて言うな。一度人の前に出たら、「これがオレだ」って胸張ってろ』
「ごめん…」
自然と口をついて出ていた。
「姉ちゃまはもう帰ってこない。でもウロモモに姉ちゃまを求めちゃいけないよね。ウロモモは他の誰でもないウロモモなんだから」
彼の目にはもう涙など一滴も残っていなかった。かわりに瞳に光を宿して、彼は続けた。
「ウロモモに胸を張らせてあげられなかったのはボクちんだ。失敗作は、ボクちんのほうだよ」
これに対し、ウロモモは首をふるふると左右に振る。
「タロウさまはイつだってワタシのことヲ考えテくださってマす。ときどきエッチなこともサれますが、そこも含めてワタシはタロウさまのことガ………」
それまでつまることなく話していたが、突然止まってしまった。
なんだか自分でも自分の口からこんな言葉が出るのが信じられないような表情で、続きを話すウロモモ。
「ワタシはタロウさまのことガ、この上なク愛おしいデす」




