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贄の運び屋  作者: ニシキメサイコ
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盗み聞き

タロウとウロモモという新たな仲間が加わった後、疾斗たちは再びアブソールへと向かっていた。


「あと少しだぜ」


ヤルバーが指差す先には教都アブソールの門が堂々と立っている。


ヤルバーと出会ったばかりの時の疾斗は彼のことを“めんどくさい男”という風にしか思っていなかったが、今は“よく分からないヤツ”なんていう認識に変わっているのが少し微笑ましい。


このように関係とは時間と共に変わるもので、最後まで互いの思いが変わらないのは稀(まれ)だ。


そのことがこの先の物語に関わってくるのだが、それはその時の話。


「ちょっと待て、ハヤト」


不意に止まるように言われても急に止まることなどできず、疾斗はずっこけてしまった。


「なんだよ」


疾斗が立ち上がりながら尋ねると、「あの話、聞いた方がいいと思うぜ」とヤルバー。


彼が向いている方を疾斗も見てみると、門の内側、十数メートル先の民家の前で井戸端会議をしている女性が3人。


女性の話を聞きたがるなんて、と訝しげな顔をしながらも言われた通りに耳を傾けてみる。


所々しか聞き取れなかったが、話の端々(はしばし)に運供の儀に関連した言葉が入っているようだった。


「ここからじゃうまく聞こえないな」


すると、うしろで暇そうにしていたタロウが、「ウロモモに任せればいいよ」と言い出す。


「どうするんだ?」


答えている暇はないとばかりにスルーして、「ウロモモ、集音機能をおねがい」と言うタロウ。


命令されたウロモモが、「集音機能、起動します」と呟いた直後、彼女の口から彼女の声ではない中年女性3人の声が入れ替わり立ち替わり飛び出し始めた。


『それにしても12回目の運供の儀はいつ始まるんだろうねぇ』


『噂じゃもう生け贄のヨンメル様を連れてアブソールを出発したらしいわよ』


この言葉に鋭く反応する疾斗。


「なに、もう行っちまったのか!」


どこともなく走り出そうとする彼をヤルバーが諫める。


「もう少し聞いた方がいいぜ」


そうしてまた盗み聞きを続けることに。


『アタシ、ある噂を聞いたの』


『なになに?』


『今回の運供の儀は史上初、生け贄が2人いるんだって』


聞きながら、ヨンメルとアズーだと確認する疾斗。


『それで2人が揃わないと運供の儀は成り立たないから、まだ教皇様とヨンメル様はフォルタール大聖堂にいるらしいの』


フォルタール大聖堂とはレヌァスン全域で信仰されているフォルタ教の総本山で、ここアブソールに建っている。


『じゃあここを出発したって話は?』


『たぶん影武者とか…』


ここまで聞けばいいだろう、とウロモモに集音機能をやめさせるヤルバー。


「じゃあヨンメルはここにいるんだな」


疾斗は自ずと握った拳に力が入るのを感じていた。


「一刻も早くフォルタール大聖堂に殴り込むぞ!」


力強く言った疾斗だったが、これに賛同するものはいなかった。


そして、まずタロウとウロモモが反対の根拠を説明し始める。


「教皇騎士団の本拠地に侵入するのに準備なしっていうのはどうだろうね」


「現在フォルタール大聖堂に駐屯してイる騎士は星無しガ100人、三等星ガ10人、二等星ガ5人、一等星ガ3人でス。こちらとノ戦力差は歴然でス」


“星無し”とは呪具の携帯を許されていない、いわゆる見習い騎士のことである。


次にヤルバーが反対の根拠を示す。


「あの噂が教皇の広めたものだったらどうすんだ。ヨンメルちゃんがいない大聖堂に突入して袋叩きにされた、なんてシャレにならねえんだぜ?」


これには疾斗も、「たしかにな」とうなづくばかり。


「どうする。どうすれば……?」


こんなふうに悩む疾斗を連れて、ヤルバーたちはひとまずの宿を探しにアブソールの中心へ進んでゆくのであった。

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