ヤルバーの呪具
「ウロモモが呪具」という意味不明なタロウの発言によって場の空気は異様なものになった。
「いやいや、どう見たって人間だぜ!?」
完全にパニック状態に陥ってしまったヤルバーは踊りとも体操ともとれない、謎の身振り手振りを交えながら、その驚き具合を表現しようとしている。
それに比べて疾斗は特段取り乱す様子もなく、顎に手を添えて深く考えている。
そんなヤルバーをタロウは、「まぁまぁ」と一旦落ち着かせた。
「ボクちんの言い方も悪かったね。ウロモモはもともと、じっちゃまが作ってくれた意思を持たない人形だったんだ。それをボクちんが改造して他の呪具の核を移植してみた。そしたらこうなったんだよ」
そう言いながら彼はウロモモの腰辺りをペンペン叩く。
「あッ、タロウさま…」
「よいではないか、よいではないかー」
「なに見せられてんの、コレ…」と思わず呟いてしまった疾斗が横を向くと、ヤルバーが妙に納得した表情でうなづいていた。
「なんか分かったのか?」
「どうりで肩が硬かったわけだ」
「あー、さっき触った時な」
そう言ったあと疾斗は思った。
『ここセクハラするヤツしかいないじゃん』と。
そうして、こんなことをしている場合ではないと自分を強く持ち直し、「早くヤルバーに呪具を見せてやってくれ」とタロウに頼む疾斗。
これに対して、「えー」とヤルバー。
「オレ、ウロモモちゃんがいいな〜」
「ウロモモはあげないよっ!」
そう言ってタロウがガシッと彼女にしがみつく。
「あッ、タロウさま…」
さっきも見たような光景が。まったくの茶番だ。まったくの茶番ではあるが、疾斗もヤルバーも笑った。
「うん、そろそろウチのハヤトが限界そうだから呪具をいくつか見せてもらおうか」
それまでアホみたいな言動をしていたヤルバーの態度が急に切り替わって真面目なものに。
タロウも察してかは知らないが、客に対する面持ちになった。
「いまウチにあるのはこれくらいかな」
そう言って、カゴに乱雑に入れられたいくつかの呪具をカウンターに広げて見せる。
「弓、本、これは…筆か」
ひと通り目を通してみた2人だが、めぼしい物ははっきり言ってひとつもなかった。
「ん、あれは?」
と、ヤルバーが部屋の角を指さす。
疾斗とタロウがそっちの方を向くと、そこには一振りの剣が立てかけてあった。青と白の、空に舞う天使を思わせるかのような鞘に収まった剣だ。
「あれはボクちんの失敗作だよ。まあ、抜いてみて」
言われるがままに抜いてみるヤルバー。
「刃が、ないぜ…?」
「少し待ってて」
「……ッ!」
しばらく待っていると驚くべきことに、刃がない剣から刃が急に出てきてちゃんとした両刃の剣となったのだ。
いやこの場合“出てきた”という表現はあまり適切ではないだろう。なにしろ何もないところから刃が“現れた”のだから。
「こりゃ、どういう呪具だ?」
ヤルバーが首を傾げると、いかにもしくじったという口ぶりでタロウが説明をした。
「最初は刃が伸びる剣を改造して“膨らむ剣”を作ろうとしたんだ。そしたらボクちんってばドジやらかして、“抜いたときに目に見える範囲にある金属と同じ量の刃が出来る剣”を作っちゃって…」
「いや、そっちの方がすごくね!?」
声を合わせて叫ぶ疾斗とヤルバー。
「どうやらジイさんよりも改修屋の才能があるみたいだな」
このヤルバーの言葉に、「思ったとおりのものを作れないんだからボクちんはまだまだ半人前だよ」と応えるタロウ。
思ったものよりすごいものが作れているからいいのでは、と思うが決して口にはしない疾斗。
「それでも、オレはこの呪具を買わせてもらうぜ」
「ダメだよ。これは失敗作だから…」
「おい、タロウ」と急に表情を変えるヤルバー。
「自分の作ったモンを失敗作だって思うのはいいことだ。伸びしろがある証拠だからな。でもよ、人前じゃ絶対に失敗作だなんて言うな。一度人の前に出たら、『これがオレだ』って胸張ってろ。そしたら誰かが認めてくれて自信がつく。自信は次への意欲になる」
キョトンとしているタロウの肩に手を置き、いつも通りのにやけ顔に戻ったヤルバーが、「聞いたことなかったか。これもジイさんの言葉だぜ?」と笑った。
そうして代金を置いて店を後にする疾斗とヤルバー。
「しかし、そのジイさんって人はいいこと言うもんだな」
と、関心する疾斗に、「最後のはオレの言葉さ」とヤルバーが呟いた声は届かないのであった。
忙しくしていて一ヶ月以上も間が空いてしまいました。今後も途切れ途切れになる時もあるかとは思いますが投稿自体は続けていきますのでよろしくお願いします。




