いざ買い物
一気に頭を使ったせいで混乱気味の疾斗だが、この調子で事実を結びつけ始める。
「デュリオスを利用して現世に侵攻するために必要なのが生け贄ってことか。だからタレスはアズーの村を襲ったんだ」
生け贄を消せば運供の儀がなくなり、運供の儀がなくなれば侵攻もできなくなる。そういう考えなのだろうと疾斗は推測した。
しかし、ここで新たな疑問が浮かぶ。
「どうして四肢戦士は現世侵攻に反対したんだ。俺が反対するなら当然だけど、こっちの世界のやつには悪い話じゃないだろ?」
たしかにな、とヤルバーがうなづきながら、「ひと通り話したことだし、行こうぜ」と腰を上げた。
分かった、とモヤモヤしたままの疾斗も立ち上がる。
こうして2人は再び平坦な道を歩き出した。
「で、これから武器屋に行くんだろ。良い店なのか?」
黙っていられない疾斗はそう尋ねる。
「良い店に違いはないが、武器屋じゃないんだなぁ。これが」
「じゃあなんの店なんだよ」
「着いてからのお楽しみ、さ」
言ってる間に、とヤルバーが前方を指差した。
「あれだ、目的の店」
少し先にあるT字路の、道が分かれる所に建つ店が彼のなじみの場所らしい。
外観はドーム状で、表面は漆喰で塗り固めてあり、てっぺんからは煙突が伸びている。
「レヌァスンじゃ珍しいんじゃないか、ああいうの」
「あそこの主人は変わり者で、他のヤツがしないことばっかりしてるのさ」
ずいぶん店主と親しげな言い回しに、疾斗は思わず吹き出してしまう。
「どこか面白かったか?」
「すまんすまん。お前のこと、相手にしてくれる人いたんだな」
そりゃいるわ、とツッコミを入れるヤルバーと、それに笑う疾斗はようやく店の入り口まで来た。
ヤルバーがドアノブに手をかけ、ひねる。
ギィィィ
「久しぶりだなぁ、ジイさ…」
ドアを開けて彼が目にしたのはなじみの店主ではなく、後ろでまとめられたアクアグリーンの髪と流し目が魅力的な美少女であった。
年齢はおよそ十代後半。ベージュのスカーフを頭に巻いてエプロンをしているところを見ると、ここの使用人のようだ。
しかし、こんな女性を前にヤルバーがなにもせずにいられるわけもなく、
「ジイさんも人が悪いな〜。こんなにかわいい孫娘がいるならオレに教えといて欲しかったぜ」
と、彼女の肩に手を置いた。
すると次の瞬間。
「自己防衛機能、発動」と言いながらその少女はヤルバーのやらしい腕を掴み、ひねり、投げ飛ばした。
ガッシャーン
陳列されていた物が音を立てて崩れていく。
その少しあと、ドタドタという足音が聞こえたかと思うと、今度は奥から14歳前後ほどの少年がひょっこり顔を出した。
「ウロモモ、なにやってんの⁉︎」
彼はひどく心配そうな表情で使用人の少女にそう問いかける。
「申シ訳ございませン、タロウさま」
「ちょっと待ってくれ…」
ヤルバーが弱々しい声を上げて言う。
「客には何もナシか?」
「いや図々しいにも程があるだろ」というツッコミをグッと我慢して、顔を手で覆う疾斗。
最近なんだか感情の上がり下がりが激しいな、と思う我らが主人公であった。




