あの言葉
アズーたちと別れ、アブソールへと続く平坦な道を進む疾斗とヤルバー。
太陽が真上に昇った頃になって、ヤルバーが思い出したように、「少し、馴染みの店に寄らせてもらうぜ。これじゃあそろそろ厳しそうだからな」と、普段使っている笛型の隠し刀をクルクル回して見せた。
「笛の話か?」
「おいおい、頼むぜハヤト〜。そりゃ武器に決まってるだろーよぉ」
ここぞとばかりに集中攻撃するヤルバーである。
ペシペシと自分の肩を叩く手を払いのけ、疾斗は尋ねた。
「お前がその隠し刀以外を使ってる姿が想像つかないな。どんな武器を買うつもりなんだ?」
それは着いてからのお楽しみ、ともう一回疾斗の肩をポンと叩き、ほんの少しだけ歩を速めるヤルバー。
「じゃあもう一つ聞くが、」
前を行く彼の背に向かって疾斗が話す。
「お前も正剣兵団について何か知ってるのか?」
ピクッとヤルバーの肩が動いた、気がした。
「どうして、そう思うのさ…?」
ゆっくりとヤルバーが振り向く。
「いや“どうして”とかじゃなくて知ってるかどうか聞いただけなんだが…」
困った疾斗の表情に嘘偽りのないことを確認したヤルバーは自分が墓穴を掘ったことに気づいた。
諦めたヤルバーが、「分かった」と言って両手を上げる。
「オレの自滅だな、完全に」
「で、何を知ってるんだよ?」
その前に、とヤルバーが知りたがる疾斗をなだめる。
「まずはそこの木陰でひと休みしようか」
ちょうどいい大きさの岩に腰をかけると、ヤルバーは話し始めた。
「ゼントが言った内容だと完璧じゃないんだ。アイツは正剣兵団の目的については知らなかったみたいだからな」
思い返してみれば、教皇から何事かを聞いたタレスは反フォルタ教勢力を募った、という情報しかゼントの話にはなかった。
その“何事か”が重要であるのに。
「なんで反フォルタ教の思想を掲げたのか、か…」
「そうさ。そしてその答えをオレは知ってるってわけよ」
ストレートに言わないあたりがヤルバーらしい。
「もったいぶらずに聞かせろよ」
ヤルバーはこれに、短気は損気だぜ、と笑いながら、
「正剣兵団の将軍、タレスは“運供の儀”が行われる本当の理由を知ったのさ」
と言った。
運供の儀。この単語について疾斗は自分がこれまで見聞きしたことを基に認識を再構築しようと試みる。
彼の脳内にまず浮かんだのは沼の姫、ドゥーナが紹介してくれた医者のゴン爺が言っていた内容である。
何百年か前にある男が怪物に会い、その怪物から、80年間隔で異能の力を持った生け贄を連れてこないと暴れ回るぞ、と脅された。
そのある男とは今の教皇であるルゥガ・エナ・ファルガストで、フォルタ教をつくった張本人。
そしていつしかその生け贄を運ぶ儀式を、供物を運ぶ儀式ということで、“運供の儀”と呼ぶようになった。
ちなみに今回で12回目である。
以上がゴン爺の言っていたおおまかな内容だ。
「思い返すと、ゴン爺は重要なことを伝えようとしてたんだな…」
疾斗がそう呟くと、ヤルバーが首を横に振った。
「確かにゴン爺さんは当事者にしか知り得ないことを言っていた。だが、もっと核心をついたことを言った人がいたのを覚えてないか?」
よく思い出してみな、とヤルバーが疾斗の眉間をつつく。
しばらく考え、突然ハッと顔をあげる疾斗。
「愛結…。ニータか?」
疾斗の恋人である富沢愛結ことニータ・モカフス。
現世(疾斗のもといた世界)からスマホを介して1度だけレヌァスンにいる疾斗と話したことがあった。
今度はそのとき彼女が何を言ったかを思い出してみる。
「教皇が、何かを企んだんだよな。侵略…。そうだ、ニータは『教皇が何かを使って現世を侵略しようと考えた』みたいなことを言ってた!」
彼が絞り出した答えはどうやら合っていたようで、ヤルバーがパチパチと拍手をした。
「ご名答だな、ハヤト。それこそが運供の儀が行われる本当の理由ってわけさ」
そうして、言うべきことは全て言ったとでも言いたげな顔でいるヤルバーに、まだ自分は納得していないことを伝える疾斗。
「その“何か”が分からないうちは引き下がらないぞ」
そこまで聞きたいか、とヤルバー。彼はどうしてもこの先を言いたくないらしい。
疾斗は闇ハヤトを引き合いに出せばもしかしたら、と思い、
「言わないんだったら、やばい方の俺が出てくるかもな」
なんて脅してみた。
結果から言うと、効果は抜群のようだった。
「おいおい、おっかないぜ〜。言えばいいんだろ、言えば」
そうだ、と疾斗。
「その昔、生け贄を教皇に要求したっていう伝説の怪物、デュリオスだよ」
「なんだって…?」
聞き返さずにはいられないだろう。なにしろ現世で聞いた謎の単語を、異世界で再び、こんな形で聞くことになったのだから。




