別れの朝
「起きて、ハヤト」
聞き慣れたアズーの声で目を覚ました疾斗。当分この声が聞けないと思うと、こみ上げるものもあるだろう。
実際、疾斗の目は潤んでいた。いや、彼だけではない。アズーやヤルバーも何か思うところがあるらしく、表情に陰りが見える。
それでも爽やかな別れになるよう、言葉には決して出さない一同。
皆で揃って着替え、朝食を摂る。
今日食卓に並んだのはキノコの炒め物とパンのようなものだった。
「うげっ」
ヤルバーが突然奇妙な声を発した。
「どうしたんだ?」
変な顔をしている彼に尋ねる疾斗。
「は、ハヤト。キノコがアンタの皿の方が居心地いいって言ってるぜ…?」
そう言いながらヤルバーは自分の皿に盛られたキノコをそっと疾斗の皿に移した。
一連の流れを見ていたアズーは「苦手なら苦手って素直に言えばいいのに。ヤルバーってほんと残念だよね〜」と呟く。
こんな日常が続いてほしい。
疾斗のささやかな願いも虚しく、あれよあれよという間に別れの時となった。
「さあ、行くがいい」
ゼントが両腕を広げて疾斗たちを送り出す。
「シリーナちゃんとミナちゃんのこと頼んだよ、ゼント!」
アズーが後ろ向きに歩きながら、握りこぶしを掲げた。
まかせろ、とゼントも拳を天に突き出してみせる。
こうして疾斗たちは思い出亭を後にした。
そこから少しばかり道を行くと、前方に一つの看板と二つの道が。
『右、教都アブソール/左、スジャの林』
アブソールは疾斗とヤルバーの目的地で、スジャの林とは谷賊が現在採掘している場所、つまり疾斗たちが以前行った谷族のねぐらがある所である。
「ここまでだな」と疾斗。
アズーが「そうだね」と応える。
「昨日も言ったけど、最後までには追いつくからな」
「うん」
「じゃあ、フィーナ、ベイラル。アズーを頼む」
ああ、と2人は力強く応える。
こうして一同は異なる道を行くのだっ…
「あっ」
唐突にアズーが声をあげ、疾斗たちの方へ振り返り、「ヤルバー、女のコには気をつけてねーっ!」と叫ぶ。
一瞬、間の抜けた顔をしてから、「次に会うときにゃ、オレと話が合うようになってるのを楽しみにしてるぜ〜!」と笑うヤルバーであった。




