噂
ヴェミリの領主が遣わした使者はすごすごと帰っていき、思い出亭には間の抜けた面々が残されている。
「なんだったんだ、今の」
特に間の抜けた顔をした疾斗が誰に向けるでもなく呟いた。
「アレが俺の言った“噂”なのだ」
あぐらを組んでゼントは答えた。
「その噂の内容を早く言ってくれよ」と急かす疾斗。
そうだそうだ、とみんなも従う。
「ほとんどが使者の言っていた通りなのだがな。ヴェミリ領主のランユ・ユンゲという男は金儲け命で、最近は新事業を立ち上げることに執着しているらしかった。その中で、ここに目をつけたというわけだ」
全員黙ってそれを聞いていた。しかし、沈黙に耐えかねて口を開いた者が。
「それはそうとゼント、アンタの喋り方はいつからそんなんになっちまったんだい?」
ゼントの母であるシリーナだ。
「こ、これは教皇騎士団で浮かないためにだなぁ…」
母親の前には誰も敵うまい。それは屈強なゼントでさえも例外ではなかった。
「親子水入らずを邪魔する気はないが、まだ聞きたいことがある」
「なんでも答えてやりな」
そう言ってゼントの背を叩くシリーナ。
「なんでも聞くがいい」
「さっき言ってた正剣兵団ってのがイマイチ分からないんだよな」
そう、疾斗はずっとそれを考えていたのだ。ゼントが言った“正剣兵団”。そいつらがアズーの両親を殺した真犯人だという。
そんなことも知らないのか、とでも言いたそうな表情を浮かべながらもゼントは丁寧に教え始めた。
「正剣兵団について説明するためには少し遡って話さなければならない…」




