思い出亭に迫る影
「まず、俺はシリーナの息子だ」
こんなセリフからゼントの話は始まった。
「ドイザーという姓は妻のもので、元の名はゼント・サイヨンだった」
「それでただ実家参りに来ただけって言いたいんかヤ?」
呪具と同じで性格までせっかちなベイラルが口を挟むが、横にいるフィーナからペチンと頭を叩かれて、彼は黙った。
気を取り直し、ゼントは言葉を紡ぐ。
「教皇騎士団を抜けて数日後。俺は妙な噂を耳にした」
一拍おき、
「その噂というのは…」
彼が言いかけたそのとき、玄関からこんな大声が聞こえてきた。
「ヴェミリ領主、ランユ・ユンゲ様の使いである。シリーナ・サイヨン殿はおられるか?」
もう来てしまったか、と漏らすゼント。
とりあえず部屋にいた全員が玄関まで行ってみることに。
すると、ヴェミリ領主の使者らしい人物は戸惑いながら、「この中にシリーナ・サイヨン殿はおられるか?」と再度尋ねてきた。
「シリーナならここにいるよ」
使者の後方、つまり外から本人が答えた。
振り返った使者は、これ幸い、と指を弾き、要件から述べ始める。
「この土地を立ち退いてもらいたい。それがユンゲ様のご希望であり申す」
これを聞いた一同は声を立てずにはいられず、周囲に「えっ」という声が拡散した。
そんな中1人、「どうしてそんな話になるんだい?」とシリーナは落ち着いている。驚きより怒りが先行しているだけかもしれないが。
それをなんとなく感じ取ったのか、使者は少し低姿勢になりながら、
「ここはサイヨン殿が築き上げた信用によって、ヴェミリでも指折りの、人が集まる場所となり申した。そこでユンゲ様が素晴らしい効用を起案された次第であり申す」
これを聞いて、疾斗は思った。
いくらそれらしい言葉を並べたとしても、要はシリーナのおこぼれに与ろうという魂胆なのだと。
シリーナも同じことを思ったらしく、「ランユの野郎に伝えといとくれ。アンタの道具になんかなりゃしないってね」と使者の肩を掴み、言った。
その様子は、彼女とランユ・ユンゲという領主との間に、何かしらの因縁があることを如実に物語っていたのだった。




