恋心
訓練所の激闘から丸3日。
疾斗は誰かに膝枕されていることに気づき、目を覚ました。
「愛結…?」
愛する者の名を、意識が朦朧とする中で呼び、今自分を膝枕している人物の頬に手を沿わせる。
段々と意識がハッキリしてきた彼が、よくよく相手の顔を見ると、
「のわっ、誰ェ⁈」
全く知らない、白い服を着たオッサンに膝枕をされていた。
「シリーナさん、起きましたよぉ!」
そのオッサンは疾斗が意識を取り戻したことを確認してからそう叫んだ。
するとすぐにドタドタという足音が聞こえ、部屋の戸が勢いよく開いたかと思うと、入ってきたシリーナが心配と歓喜の入り混じった表情で疾斗に駆け寄る。
「ハヤト、アンタ大丈夫なのかい⁉︎」
ゆさゆさと疾斗の体を揺するシリーナ。彼を思いやっての行動なのだろうが、こんな屈強な…、いや、たくましい…、いや、頼りがいのある女性に揺さぶられては疾斗の身が持たない。
案の定、
「いだだだ! 痛い、痛いですって、シリーナさん!!」
こうなってしまう。
シリーナはハッと我にかえって身を引いた。
「悪いね。お客さんは大切だから、つい…」
と、笑った彼女は、今度は疾斗を抱きしめた。
「無事でなによりだよ」
ありがとうございます、と感謝の意を表した疾斗の目線は、先ほどのオッサンの方へ。
「あのー、ところで、このオッサン誰ですか?」
一瞬の静寂。
そしてシリーナは大笑いした。
「アハハ、おかしいねぇ。テュッパはまだ25だよ」
テュッパと呼ばれたオッサン、ではなく男は納得がいかない様子で頬杖をつく。
「兄ちゃんが着てるその服、おれっちが作ったんだぜ?」
オッサンはねえだろ、とブツクサ。
「そうだったんですか。ありがとうございます」
とても気に入ってます、と素直な感想を伝えた彼は、ずっと気になっていたことを尋ねてみた。
「アズーたちは…?」
フフッと微笑むシリーナ。
「やっぱり気になるかい?」
いま呼んでくるよ、と彼女は立ち上がり、部屋から出て行った。
数分後。
アズー、ヤルバー、ベイラル、そしてフィーナを連れてシリーナが戻ってきた。
ひとりひとりの様子を確認し、ベイラル以外は目立った怪我がないようで胸をなでおろした疾斗は、ここで、フィーナがモジモジとしていることに気づく。
「どうしたんだ?」
「れ、礼を徹すのは谷賊の流儀だし、それ以前にアタイはアンタに失礼なことを言ったからサ…」
「つまり、何が言いたいんだ?」
そこまで言わせるか、というような顔を見せて頬を赤らめるフィーナ。
「つまり…。つまりだね。ありがとう、と、すまなかった」
ここまでで彼女が本当に不器用であることは明確だろう。
そんな彼女がハッキリではないが、自分の気持ちを伝えたことで、疾斗もそれにストレートな言葉で応えようと思ったのか、背を伸ばして深呼吸する。
「困ってるヤツがいたら何がなんでも助ける、それが俺の流儀だからな!」
そう言った彼がニッと白い歯を見せて笑うと、フィーナはうつむき、微かに頬を赤らめた。
こんなことでいいの。
アタイの初恋は、こんな終わり方でいいの。
「…いいわけないよね、ティマ」
これまた小さく呟くと、フィーナは顔を上げる。
「ハヤト、2人で話したいんだ。アタイと、アンタの2人で」
ベイラルは何かを悟ったのか、「さあさあシリーナさんたち出ていくんヤ」とみんなを戸の辺りまで誘導していく。
ところが、そのまま自分も出ていくかと思いきや、彼はフィーナの隣に立ち、いつでも話し始めてくれ、と言わんばかりの堂々とした表情を浮かべる。
「ベイラル…」
たまらず疾斗が口を開いた。
「たぶん出ていったほうがいいぞ…」
だが、疾斗の助言も虚しく、恐れていた事態に。
「ベイラル、アタイは2人って言ったんだよ?」
「だいじょぶヤ、姐さん。おれと姐さんは2人で1人ヤから!」
「なに気色悪いこと笑顔で言ってんのサ!」
バチィィン
フィーナの平手打ちが飛び、それによってベイラルも飛んだ。
それから数分後、やっと2人きりになって、フィーナは自分の胸が高鳴るのを覚えていた。
不器用ながらも自分の初恋を応援するために傍にいようとしてくれたベイラルの顔を思い出し、ありがとう、と心の中で呟く。
そうして深呼吸をし、思いの丈をぶつけるフィーナ。
「ハヤト。アタイは、アンタのことが…」




