フィーナ救出に向けて
キョルメと戦いを繰り広げた夜の翌早朝。ついにフィーナを救出するために宿をあとにする3人。
すると後方から呼び止める声が。
「戦いに行くんだろう。腹ごしらえしていきな」
シリーナにはなにも話していないはずだった。なのに、なぜ。
「どうして分かったんですか?」
これほど簡単なことはない、と言わんばかりに快活に笑うシリーナ。
「あんたら2人とも、分かりやすいったらありゃしないんだよ。それにそんな顔して出てった男をもう1人知っててね…」
そう言った彼女は、そういえば、とキョロキョロ辺りを見まわし始める。
「ヤルバーはどこだい?」
アズーの左肩にちょこんと乗っているカエルのヤルバーはこれに少し反応したように見えたが、大声で鳴いたり、跳んだりはしなかった。
「ヤルバーなら、」とアズーが代わりに答える。
「僕とハヤト以上にがんばってるから、休んでるの」
これがどちらへのメッセージなのかは分からないが、シリーナはそれを聞いて納得した。
「ゲコッ」
しかし、ヤルバーは言いたかった。
「おいおい、そんなこと言ったらハヤトが怒るぜ。『1番がんばってるのはアズーだ』ってな」
無情にもカエルの鳴き声に変換されてしまう、思いやりで溢れた言葉。思いが届かないことがこれほど虚しく、辛いことだとは。
そんな時、ふいにアズーがヤルバーを手に乗せ、彼に向かって小さく頷いた。
ヤルバーは思った。言葉が重要なんじゃなく、伝えようとする意思が必要なんだ。と。
気付けば、両生類の冷たい瞳から一粒の熱い涙がこぼれていた。
「よし、早く入んな。ミナがおいしい朝飯つくって待ってるから!」
彼女の厚意に甘え、疾斗たちは朝食をとり、ミナとシリーナに「いってきます」と伝えて歩き出した。
そんな彼らは道の途中で、くたびれた様子のベイラル(フィーナの右腕)と遭遇する。
「まさか、お前1人なのか?」
動揺している疾斗。それもそのはず。今回の作戦は谷族の若い衆の協力がある前提で考えていたのだから、それがベイラル1人でいたらそうなるのも無理はない。
「それについては申し訳ないヤ。だが、アイツらには怯えが生まれてしまったんヤ」
戦闘やここぞという時、緊張や恐怖は逸る心を抑えるブレーキになり、冷静な判断をくだすことを可能にするが、少年たちの場合はそれが作戦に支障をきたすほどにまで膨れ上がっていた、とベイラルが語る。
それはそうと、と彼が辺りを見渡し始める。
「おい、そっちも1人足りないヤ?」
そりゃ気付くよな、と疾斗。
「ヤルバーは先に潜入してるんだ」
とっさにそう説明したが、後から面倒なことにならないかという懸念が心の片隅に。だがその直後、やはりこれでいい、と思いこむ疾斗。
「じゃあ、早く行こうっ」
2人の手を引っ張って、左肩にヤルバーを乗せたアズーは教皇騎士団訓練所に向けて歩を進めた。




