再会と衣装と食卓
「久しぶり。ハヤト、ヤルバー」
目の前にいる少女は声も姿もヨンメルそのものである。
どうやってここへ来た、というよりどうやってここが分かったのかという疑問も浮かんだが、それよりも疾斗はヨンメルが戻ってきたことを喜んだ。
「大丈夫か、ヨンメル。教皇騎士団のヤツらにひどい目にあわされなかったか?」
彼女の両肩に手を置き、そう尋ねる。
すると彼女は笑って、「ええ、大丈夫よ。教皇様は素晴らしいお方で、なに不自由なく暮らせたの」と返した。
よかったよかった、と胸をなでおろす疾斗を尻目に、ヤルバーも1つ質問を投げかける。
「何か伝えることがあるんじゃないのかい?」
なんとなくではあるが、疾斗は今のヤルバーの言い方に対して違和感を覚えた。なんというのだろう、久しぶりにしては冷たい、ような。
だが疾斗の感じた違和感はヨンメルには生じていないらしく、彼女は普通に返答した。
「ただ伝えに来たの。“もう助けなくていい”って」
まただ、と疾斗は思った。
また出会った頃の、自分さえ犠牲になれば、という考えのヨンメルに戻ってしまった。
しかし疾斗には気がかりなことが。
二刀流の2等星、ギアンと対峙したときにヨンメルと心が通じ、“彼女の本心”がわかったつもりであったが、今の彼女は何かが違うのだ。
迷路でやっと見つけた出口がひっかけだったときのような気分のまま、疾斗は言った。
「そんなことないだろ、ヨンメル。お前の心はそうは言ってな…」
「…知ったようなこと、言わないで」
どこにも芯がない言葉に戸惑う疾斗。ヨンメルが見えない。ヨンメルは、どこだ。
「お前…」と、疾斗が彼女に寄っていこうとするのを、ヤルバーが腕を掴んで止めた。
「ごめんね〜。今日のハヤト、疲れてるみたいでさ。今日はとりあえずオレたちと一緒にここに泊まろうよ。ね、ミナさんもいいよね?」
うんうん、とうなづくミナ。
ヨンメルの方は乗り気ではないようだったが、結局最後は泊まることに。
その後、服を持ったシリーナが帰り、疾斗たちは新しい服に着替えた。
「おっ、オレは紫かぁ。さすがシリーナさん、分かってる!」
ヤルバーの服は、上着は暗めの紫をベースにところどころ白があしらわれた七分袖、下は裾がダボっとした黒の長ズボンだ。
「ヤルバーのくせにカッコいいの腹立つな〜」
そう言うアズーは、小豆色ベースのノースリーブの胸に黄色い糸で文字が縫ってあるものと、裾が膝上の半ズボンといった格好である。
我らが疾斗は、というと。
「俺はこういう感じ、ね」
帯を締める前開きのタイプで、裾が膝ほどまである、黒ベースに瑠璃色が所々あしらわれた長袖の上着と、ヤルバーと同じく裾がダボっとした長ズボンの白バージョンといった格好だ。
「よーし、新しい服で気分一新。うまいメシを食べさせてもらおうか!」
調子よくヤルバーが言って、皆が席につく。
いただきます、という疾斗のリードに合わせて他の者も手をあわせた。
「この魚、なかなかイケますね」
疾斗が木でできたフォークのようなもので、白身魚を口に運びながらそう言った。
レヌァスンに来てから初めてのまともな食事は彼の体に、心に沁みていく。
彼がこれまで食事をほとんどとらなかった理由は謎の食欲不振である。
本来なら三食では飽き足りず、朝食と昼食の間に間食をとっていた疾斗だが、この世界に来てからは不思議と食欲が湧かなかった。
その原因を彼なりに推察してみて行き着いた1つの結論としては、2つの世界の時間の速さが関係しているのでは、というものである。
以前、現世にいる疾斗の彼女、富沢 愛結ことニータ・モカフスの話にその話題が出てきたのだ。
彼女の話によると、彼女が現世に転移してその身に起こった異変は、“驚くほど早く老化”するというものらしい。
疾斗はここから1つの仮説を立てた。
それは、ある世界に流れる時間はそこに存在する万物にも流れていて、物体が異世界に転移したら元の世界と異世界の時間のズレからそういった異変が起こる、というものである。
もしこの説が合っているなら、疾斗の飢えのスパンが長くなったのも一応は合点がいく。
そんなことを考えながらゆっくりと疾斗が食事をしていると、「なんだい、腹減ってないのかい?」と、彼の食事の半分がゴツいシリーナによって持って行かれた。
「ずっと思ってたんですけど、シリーナさんってゴリラみたいですよね」
言ってから自分の命が惜しくなった疾斗は、もちろん冗談ですよ、と笑ってごまかそうとした。
しかし返ってきたのは、「なんなんだい、その“ごりら”ってのは?」という間の抜けたリアクションだった。
これには疾斗もおもわず「へ?」と返すことしかできず、場の空気は変な方向へ。
仕方なく絵に描いて説明を試みる疾斗。絵の心得なら多少はあるため、口より早いと理解したのだろう。
紙とペンをもらい、シャシャシャと脳に浮かぶ像を平面に写し込んでいく。描き終わり、絵を皆に見せると、「なぁんだ」とこれまた意外な反応。
「知ってるのか?」
「知ってるもなにも、」とヤルバー。
「こりゃバタルア山地に棲む『モナモナ』そっくりだぜ」
今度はヤルバーにその“モナモナ”とやらを描いてもらうことに。
出来上がった絵を見て、確かにゴリラに似ていると疾斗は思ったが、やはり異世界の動物。所々は違っている。ゴリラには自身の体長の2倍ほどのしっぽはついていないし、そもそも腕は4本もない。だがそれでも似ていることは似ている。
「あ、ああ。たしかにゴリラっぽいな。特にこの姿勢……ハッ」
そのとき疾斗は背中に悪寒を感じた。ゆっくりと振り向くと…。
「それで、アタシがモナモナみたいだって?」
バキッバキッと指を鳴らすシリーナが立っている。
「いやあの正確にはゴリラみたいっていうか…」
「アタシは山になんか棲んじゃいないんだよォッ!」
綺麗なアッパーを決められた疾斗は空中で「そこーっ⁈」と叫ぶのだった。




