アズーの変化
シリーナが営む宿屋、『思い出亭』に到着し、しばらく泊めてもらえることになった疾斗たち。
二階建ての思い出亭は周りを苔むした庭に囲まれており、庭には魚が泳ぐ池が4つある。3人はそのうちの1つ、真下に、茶色い魚が3匹ほどいる池が見える二階の部屋を使わせてもらうことにした。
「いい部屋だね、ハヤト!」
アズーが木の床で跳ねてはしゃぐ。ヤルバーがそれを慌てて止めた。
「おいおいおい、宿ってのは自分たちだけが泊まってるわけじゃないんだぜ。自分が疲れてるときにされたら嫌なことはしちゃいけないってことさ」
はぁい、と返事をして椅子に座るアズー。
この2人のやり取りを見ていた疾斗は、なんだかアズーとその両親のかけ合いを見ているような感覚を覚え、直後、アズーの両親の命を奪った教皇騎士団ひいては教皇に対して怒りがこみ上げてくるのだった。
ここで、ボウズもおとなしくなったところで、とヤルバーが話を転換する。
「フィーナお嬢さん救出の作戦をそろそろ立てようか」
疾斗はヴェミリに着いた辺りからアズーに聞きたかったことがあり、今がその時といった風に尋ねた。
「お前の、未来がわかる能力でフィーナを助ける方法はあるか?」
アズーは黙っている。
どう答えればいいか思案している様子だったが、数分後、ようやく口を開いた。
「はっきり言って、無いよ。実はある時から未来が絶えず変わり続けてて、僕の能力じゃせいぜい数分後に来る僕自身に関する未来くらいしかわからなくなっちゃったんだ」
こう話すアズーの顔はとても悔しそうなのだが、心なしかその奥に、楽しいという感情が秘められている気もする。
「僕ね、こんなこと怒られちゃうかもしれないけど、生まれて初めてワクワクしてるんだ。この先なにが起こるかわからないなんて初めてで」
あぁ、と疾斗がうなづき、誰も怒りゃしないさ、とヤルバーが笑ってアズーの頭を勢いよくなでた。
「痛いよ、ハゲちゃうよっ!」
アズーがヤルバーの頭をペシペシ叩いていると、階下から「元気だねぇ、アンタら。夕飯できたからさっさと降りてきな!」とシリーナの声が響いた。
はーい、と返事をして3人が階段を降りて行くと、「こんにちは。夕飯はこちらのお食事会場で食べてもらいます」と見知らぬ色白の美少女に案内をされる。
美少女と聞いたら当然黙っていないのがあの男。
「いやー、こんなヤブラビの花のように可憐で色白なお嬢さんに会えるなんて…、オレはどれだけ幸運なんだ!」
言われた方は、はぁ、となっているのにも構わず彼はしゃべり続ける。
「オレ、ヤルバーっていいます。あなたは?」
「ミナ=サイヨンですけど。あの、この人…」
見かねた疾斗が、「あー、気にしなくて大丈夫です」と苦笑いを浮かべながらヤルバーの視線を手のひらで遮断し、こっちですか、といそいそ歩く。
そんな後ろで首をかしげるアズー。
「サイヨン…?」




