神具
再び武家屋敷に集められた一同の顔は、何事か、と様子を探ろうとするもの、面倒だ、と気の抜けたものなど様々で、この集団の結束の無さが手に取るように分かってしまう。
今さらながらではあるが、彼らについて少し説明をすると、集団の名称は『護衆』といって、その目的は字からも読み取れる通り、守護だ。
そして彼らはそれぞれの力を明確にするため、順番を決めた。
それがときどき会話の中に現れる『〜ノ手』である。1番実力のある、壱ノ手は疾斗の祖父。この人物は護衆のメンバーが束になったとしても敵わない、らしい。
次に力を認められているのは弐ノ手、次郎左衛門だ。穏やかそうな雰囲気の彼であるが、頭に血がのぼるとなんと、なおも穏やかになるという世にも奇妙な噂が流れている。
参ノ手は『みきピロ』こと幹弘。楽器を触ったこともないのに“スーパーロックンローラー”を自称する変わった男だ。
肆ノ手はこの編の主人公、仙波八糸。
伍ノ手はブン太。美少女フィギュアをこよなく愛する男だ。
陸ノ手は八糸に想いを寄せる、湯ノ原恋詩。
漆ノ手はなにかと謎の多い少女、ワカツキ。
以上の7人によって構成される護衆だが、なんとこの中で1番の実力を有しているはずの壱ノ手、疾斗の祖父が急に姿をくらましてしまったのだ。
その空席をどうするか、という議題を話し合っているわけである。
「それで」
皆の視線が、口を開いた次郎左衛門に注がれる。
「再びこの面々を集めた理由を、そろそろお教えいただいてもよろしいか?」
「そうだぜ、壱ノ手については倉持のじいさんの孫に頼むことになったんだろ。いまさら集まる理由があるか?」
次郎左衛門に便乗するみきピロ。
これに八糸は微笑みながら、「理由はちゃんとあるよ。彼を壱ノ手にするには2つ。みんなに2つだけお願いがあるんだ」と答えた。
「1つは、みんなには当分、別の世界で生活してもらうってこと!」
あまりにも突然のことに、この場にいるほとんどが動揺を隠せないでいる。
「ほう」
そんな中、次郎左衛門は興味深いといった様子で、体を前後にゆっくり揺すっている。
「別の世界…。そう来られようとは」
天を仰ぎ額に手を添える次郎左衛門を見て、八糸はすこし違和感を覚える。
「うーんと、壱ノ手の孫と異世界、どう関係があるんでござるか?」
まだなにもピンと来ていないことを、皆を代表してブン太が問うた。
「壱ノ手の孫、倉持疾斗がこの世界とは別の世界、レヌァスンにいるからだよ」
一同から驚きの声が。
「おいおい、異世界なんてロックじゃねーか。オレは乗るぜ!」
みきピロが言った。
「…でも、どうやって行くの」
これまで黙っていたメガネ女子、ワカツキが誰にも焦点を合わせず、テーブルの一点を見つめながら呟く。
この問いに対し、「これ、使うんだ〜」と言って八糸が見せたのは、あの指輪だ。
「これは神具。ボクたちがお守りしている神サマが生み出したとされる道具だよ」
ひと呼吸おいてから、彼は恋詩に、皆に神具を配るように言った。
「うお、オレに相応しいイカしたギターじゃねーか。ん、ちょっと待てよ。このギター、弦ついてねえぞ⁈」
うるさいうるさい、と片耳を抑えながら、「あー、使い方はあとで各々説明するから、とりあえず黙って受け取って」と投げやりな八糸。
ぶつくさ言い続けるみきピロは完全に無視の方向で、次に神具を受け取ったのはワカツキだ。
彼女の腕の中には、そこそこな大きさがある、水色のウサギのぬいぐるみが収まった。
彼女の「…かわいい」という小さな声が聞こえる方から少し視線をずらすと、今か今かと待つブン太が座っている。
彼には形が相当歪んだ箱庭が手渡された。
「こ、これって某の推したちのための箱庭でござるか…?」目に若干の涙を溜めて、彼はニヤつく。彼なりに喜んでいるのであろうが、どこか不気味な感じがする。
そうして最後は次郎左衛門。彼の前には龍の頭を模した香炉が置かれた。
ゆっくりゆっくり伸ばされる次郎左衛門の手を、八糸は固唾を飲んで見つめる。
次郎左衛門が神具に触れた瞬間、この中に裏切り者がいるのか、いないのかが明らかになる。
言い忘れていたが、これはただの道具の受け渡しなどではなく、ある勢力とつながっているスパイをあぶり出す検証なのだ。
呪具とはもともとその勢力が生み出した代物で、呪具を手にした者はその身に呪いを受け、聖なる力を宿した神具に触れることができなくなってしまう。
他の呪具も、触れることはできるが、最初に手にした呪具固有の力の波長に身体が適応しているため、他の波長の呪具は扱うことができない。
つまり、その勢力の手先であるならば、今配られた神具には触れることができないということだ。
そして未だに神具を手にしていないのは次郎左衛門ただ一人。
八糸はいつでも戦えるように精神を研ぎ澄まし始めた。
あと、少し。あと5センチで、次郎左衛門の手は神具に触れる。
4、3、2…。
「これは、ほう。さしずめ“龍頭炉”というところでございますかな。見事」
この老人はなんの異常も現さずに神具を手に取り、そして観察している。
「う、うん。あのお方が気に入ってる神具のひとつだよ」
と、慌てて応える八糸だが、心中は錯乱状態に陥って、自分がいま何を言っているのかもわからなくなってしまっている。
「よーし、全員神具を持ったことだしよ、行くか、異世界!」
肩をグリグリ回し、叫んだみきピロ。
「いないのか…。ま、美しいボクならどうにかできるか!」
そう吹っ切ると、例の指輪をスッと指にはめ、皆に手をつないで円を作るように指示する八糸。
自身も弧の一部となり、息を大きく吸ってから叫んだ。
「世渡しッ!」
すると皆の身体が光に包まれ、消えたのだった。




