収束
襖から入ってくる日光と机に置かれたカンテラの灯が皆の慎重な面持ちを照らした。
口ばかりではなく、実際八糸が来てから皆の話し合いに対する態度は劇的に変わったのだ。
「さて、最優先で決めるべきは壱ノ手の空席をどうするかなんだけど」
八糸はシャーペンをクルクル回しながら、続ける。
「ボクは倉持のじいちゃんを捜すより、新たな人物を選んだ方がいいと思う」
これにピクッと眉を上げて反応したのは次郎左衛門だ。
「ほう。ならばどのような者が適任とお考えかな?」
八糸はこの質問を待っていたようにニヤリと笑った。
「倉持のじいちゃんの孫だよ」
場が少しだけ騒がしくなった。
「そもそも壱ノ手に孫なんかいたのかよ?」
オールバック男は疑るような上目遣いで八糸を見る。しかし何も読み取れなかったらしく、浅いため息をついた。
「…みきピロ、感じ悪い」
ワカツキと呼ばれている少女は丸メガネごしに、オールバック男、みきピロを見据える。
「うるせーよ。このスーパーロックンローラーの幹弘様が感じ悪いわけねぇだろ。てかなんだその呼び方…」
「もう、いい加減にしてください!」
バンッ
卓を叩く音に、その場にいる皆は息を飲んだ。
「湯ノ原氏…」
「八糸サマの素晴らしい声が聞けないじゃないですかッ!」
一斉に椅子から転げ落ちる一同。しかし八糸だけは全くその通りという顔で座っている。
痛そうに腰をさする次郎左衛門が八糸に問うた。
「し、しかし仙波殿、“あの方”への断りなしに事を進めて良いものですかな?」
ここまで淀みなく話していた八糸であったが、この質問ばかりはほんの少し悩む様子を見せた。
「さすがにつっこむか…」と、声にならない声で呟き、八糸は答える。
「実は“あの方”の了承はもうもらってるんだよね」
「ほう。それなら誰も文句はありますまい」
いつも通りの次郎左衛門は、食い下がって確認をするほどの心配性なのだが、今日は違った。
そうしてバチンと両手を合わせると、「では、倉持殿の孫とやらに委ねてみようじゃありませぬか」と笑った。
「さすが次郎左衛門、話がわかるねー」と、八糸もつられて笑う。
なんやかんやあったがこうして話し合いは収束したのだった。




