もう一人の主人公
月も星も見えず、ネオンだけが燦然と輝く風俗街。
その下では不敵に笑う者、歩くこともままならない者、大声で喚き散らす者など、様々な人間同士の群像劇が繰り広げられている。
そんな光景の中にこの物語の“もう1人の”主人公、仙波 八糸はいた。
年齢は若干15歳、身長は160センチ前後で、髪は美しい銀髪。顔も整っているのだが、『この世に完全な人間はない』と誰かが言ったように、彼にも欠点が。
しかしそれについては、今はあえて触れないことにする。
さて、そんな端正な顔立ちの八糸が風俗街を歩いていると、
「ねぇねぇお兄さん、ちょっと遊んでかない?」
当然のように客引きに捕まってしまう。
しかし八糸は誘惑に負けるどころか、「おいブス、汚い手で美しいボクに触るなよ」と自分の腕に絡みつく客引きの手をふりほどき、何事もなかったかのように歩き出した。
「ぶ、ブスですってぇ⁉︎」と怒鳴り声が後ろから聞こえてくるが、気にしない。
なにしろ八糸は先を急いでいるのだ。
せかせかと路地裏に入り、風俗街を抜けると、そこには武家屋敷のような構えの建物が。
八糸が自慢の銀髪を手ぐしで整えながら屋敷に入ろうとしたとき、「おい」と何者からか後方から呼び止められた。
ため息をつき、振り向く八糸。
「なに、急いでんだけど? あー、キミたちさっきのブスのツレみたいな?」
振り向いた先にはガタイのいい男が5人。皆いまにも人を殺しそうな顔をしている。
「サツキさんのことをブス呼ばわりしやがって、殺してやる…!」
そう言った1人は懐からスチャッと光るモノを取り出した。
「あっれー、それナンタラ法違反じゃないの?」
八糸は指をさして笑った。まるでこれから自分がリンチにかけられるとは微塵も思っていないかのように。
「ぐァァァ!」
このやりとりに業を煮やした、ナイフを持った1人が八糸に走り寄る。
「おい、やり過ぎるなよ」とか、「あまり大声を出すんじゃねえ」なんていうことを残りの男たちが言っているが、もうこの男には応えるだけの余地はなかった。
ブンブン振り回されるナイフを確実に避けていく八糸。しかし、決して反撃はしない。
「キミ、いい気概だね。名前は?」
ナイフを持つ男の腕をガシッと握り、攻撃できないようにしてから八糸はそう尋ねた。
「…フジワラだ。てか離せ!」
パッ
手を離すと、八糸は距離を取るため5メートルほど後方へ飛び退った。
「じゃあフジワラくんにチャンスをあげるよ。なーに、だれでも解る質問をするだけだから」
そう言った八糸はスッと右手を前に差し出した。その人差し指には指輪が。嘆き顏の男の両目に青い宝玉が埋め込まれたデザインだ。
その宝玉がまばゆい光を放ったかと思うと、八糸はその場から消えていた。
「あんにゃろォ、変な手品で逃げやがった!」
フジワラが喚くと、さっきまで八糸がいた場所にまた光が。
八糸は戻った。しかし、1人ではなかった。問題の風俗嬢、サツキを連れていたのだ。
「触るなとか言っといてアンタは触ってるじゃないの!」
「ボクだって好きで触ってるわけじゃない。むしろキミみたいなブスが美しいボクに触られたことに感謝して欲しいくらいだね」
これは私の個人的な感想なのだが、このサツキという風俗嬢は、アイドルと比べても引けを取らないと思う。小さめな鼻に、二重の目。その他にも魅力的な部分は見つかる。
フジワラたちが必死になるのもわかるといえば、わかる。
「テメェ、死ねッ!」
フジワラが再び駆け寄る。
しかし、八糸はサツキの腕を掴んだまま動かない。
銀の刃が八糸の喉仏を貫こうとしたその時だった。
フッ
刺さるはずのナイフは消え、フジワラは体勢を崩し、地面に倒れこんだ。
「ちょうどいいや。そのままで質問に答えてくれる?」
八糸はニコッと笑った。
「ボクとこの女、どっちが美しい?」
ここまでの流れで大体の人が気づいていると思うが、この仙波 八糸、とてつもないナルシストである。




