雄叫び
アズーは自分を縛る縄を見て言う。
「ねー、これほどいてよぉ」
現在の状況としては、谷賊たちが“フォンロイ”と呼んでいた、ティラノサウルスの少し小さくなったような動物2頭が引く車の中に、疾斗たち3人が押し込められているという有り様である。
車の外から、フォンロイにまたがっているベイラルが、決して威嚇の意味は持たない大声をあげた。
「もう少しでおれらの寝ぐらに着くんヤ。そこまでガマンしろヤ」
「じゃあさ、ひとつ訊いていい?」
「なんヤ」
「語尾の『ヤ』って“谷”賊だから?」
ベイラルは言葉を一切発しない。回答が得られないとわかったアズーは続ける。
「だとしたら、とっても安易だよね。あ、でもそれはないか。それじゃあいくらなんでもダサすぎるもんね〜」
とうとう抑えきれなくなったベイラルは、
「…フィーナ姐さん、あの小僧とっちめてもいいかヤ?」
と呟いた。
しかし問われたフィーナは、フォンロイの上で腹を抱えて笑っている。
「ダハハ! こりゃアンタの負けだよ、ベイラル」
そんなこんなで賑やかに一行が谷間を進んでいると、
「フグモォォォォオオオ」
と地鳴りのような雄叫びが鼓膜を突いた。
皆とっさに耳を押さえたが、最初の声でほとんど音が聞こえなくなった上に、三半規管が一時的に錯乱状態に陥り、誰1人として直立できなくなってしまった。
「アズー…!」今の今まで、度重なる疲労のために寝ていた疾斗とヤルバーも目を覚まし、縛られた体でアズーの方へ器用に寄っていく。
木製の骨組みに白い布が張ってあるこの車に窓はなく、外の様子を確かめる術は実際に外へ出ることしかない。
ヤルバーの仕込み刀で3人が各々の縄を切り、出入り用に切ってある布をめくる。
外の様子は谷賊と遭遇する前の景色とほとんど一緒で、一面紫色の岩石があり、そこへ清流が流れている。
少し経って平衡感覚も戻り、辺りを見てまわったが、肝心の声の主は見当たらなかった。
それどころか、疾斗たちを捕縛したフィーナとベイラルの姿も見えない。
袖をまくりながらヤルバーが口を開く。
「今のうちに逃げるべきだぜ、ハヤト」
「ヤルバー、お前はアズーを連れてあそこに見える崖の上に隠れていてくれ」
そう言って疾斗は約80メートル先に見える崖を指差した。高さはさほどでもないが、周りを見渡すには十分な位置なので、隠れ場所には最適と思われる。
「いいぜ。けどハヤト、お前さんはどうするんだ?」
「さっきの声が気になるんだ…」
こうして3人は二手に分かれることとなった。
ヤルバーがアズーをおぶって、なだらかな斜面を登り、その奥の崖の頂上まで回り込む。それを確認してから、疾斗は川に沿って歩き始めた。




