手がかり
疾斗はアズーをおぶって、暗くなった森を駆け抜けていた。
右側後方にはヤルバーが黙ってついてきている。
「アズー、なにか見たか?」疾斗がボソッと聞くと、
「聞かなくてもわかってるんでしょ…」幼い少年はそれだけ答えて黙り込んだ。
ところで、なぜ3人しかいないかというと、隊長とドゥーナのとっさの判断で、みんなまとめてやられるよりも、誰かしらは確実にヨンメルの囚われているフォルタール大聖堂へ行けるようにということでこの3人のみで逃げているのだ。
さて、先ほど会話していた辺りからおよそ300メートル走ったところで、ヤルバーがやっと声を発した。
「ボウズ…。そうだな、オマエのことはボウズと呼ぼうか」ヤルバーの目線はアズーに向かっている。
「また、違う…」言われたアズーはなにも聞いていないかのように独り言をつぶやいた。
「ボウズ、ハヤトから事情はなんとなく聞いてるが、オマエにはいろんな人から託された“想い”が寄り添ってるとオレは思うぜ」
「だから?」とアズー。
このとき疾斗は、自分の肩を掴んでいるアズーの小さな手に、力が入るのを感じた。
「それに応える必要なんてない。ただそれを“わかってる”と“わかってない”とじゃ、オマエの中の『命の重さ』が変わってくる、ってことさ」
『命の重さ』。いつものヤルバーからは想像もつかないような言葉を聞き、疾斗は複雑な気持ちになっていた。
アズーもヤルバーの言葉に思うところがあったのか、目を閉じている。
それから2時間ほど後。
3人は森のはずれで休んでいた。ヤルバーは笛を奏で、アズーは地面に木の棒で絵を描き、疾斗は夜空を眺めている。
「月、やっぱりないんだよな」と、奈落の底のような、なにもない空に疾斗は呟いた。
「月ならあるぜ」とヤルバー。
「何年かに一度、レヌァスンと異世界が繋がる日があってな。その日の夜には空に月が現れるってわけさ」
これを聞いていたアズーは、「そんなのただの伝説だよ。本気で信じてるなんて、ヤルバーって子どもなんだね」と彼を鼻で笑った。
「ボウズ、オマエってときどき当たりキツいよな…」
こんな2人のやりとりを目に映しながらも、疾斗の頭には愛結、もといニータがいた。
「もとの世界に戻れる、のか?」
その後、思うだけしゃべった3人は、闇の中で眠りにつくのだった。




