恐怖! “百烈犬”
さて、ある一室で不穏な話し合いがされていたのと時を同じくして、疾斗たちは危機的状況にあった。
動く狛犬に周囲を囲まれ、戦闘が始まったのだ。
300人あまりもいれば、とる行動も各々違うのは当たり前。
「ドゥーナ様…!」と彼女を守る者、「このォッ!」とご自慢の脚力で狛犬を破壊する者、「どこだ、出てこいッ!」と謎の声の正体を探す者。
ただ、戦い方はそれぞれ違っても、その場の皆が思っていることは1つだった。
— 絶対、誰ひとりとして犠牲にはしない —
しかしその決意が揺らぐほど敵も手強く、さらには倒した端から新しい狛犬が木陰から出てくるので、疾斗たちの体力は減っていく一方だった。
「ハァ、ハァ…。そろそろ観念してくんねェかな?」謎の声が響いた。
「…おかしいわ」とドゥーナがつぶやく。
疾斗とヤルバーも同じ考えのようで、剣を振るいながらうなづきあっている。
「相手は姿を隠してあのバケモノたちを操っているだけのはず。けれど、明らかにヤツは疲れているわ…!」
「なに、不思議なことではない」とガンゾー。黄金に輝くサーベルで狛犬を串刺しにしながら続ける。
「呪具というものの本質は、力の増幅であって、事象の発生ではないからな」
つまり呪具を使うには、土台となる力が必要で、それは使用者から供給されるということらしい。そのために謎の声は明らかな疲労の色を示していたのだ。
と、そのときだった。
それまでかみついたり、体当たりをしたりしていた狛犬らが一か所に集まり始めた。
なにかが“来る”。
そう疾斗は確信していた。そしてその確信はそのまま現実となる。
謎の声は先ほどと打って変わって上機嫌に、「さあさあ、こっからが見せ場だぜェ。頼むからキレイな悲鳴をあげてくれよ?」と煽った。
「アズー、こっちに…」疾斗がアズーを覆うようにした瞬間、謎の声は、
「必殺、“百烈犬”!」と叫び、それに応えるように集まっていた狛犬らが一斉に半魚人たちの密集しているところへ飛びかかった。
疾斗は、背後から悲鳴や肉の裂ける音が聞こえるなか、腕の中で震える少年にその光景を見せまいと必死でその場を動かないでいた。




