忍び寄る声
辺りは暗くなり、森を照らすのは野営の焚き火のみとなった。その火は先ほどから吹き始めた不穏な風によって左右へ揺れている。
「こういう物って、普通あんな切れ方をするのかい?」と、突然切れたニータとの電話について、ヤルバーはネイビスに尋ねた。
「いや、こんなことは初めてじゃ。向こうで何かあったか…」
ネイビスがそう答えた時だった。
「いいや、コッチで何か起こるんだぜ」と、どこからともなく、そんな声が聞こえた。
カサカサカサカサと木の葉が音を立てる中、その声だけははっきりと拾うことができた。
「何者だッ⁉︎」とガンゾー。
しかし相手は質問には答えず、「どっから引き裂こうかァ。腕? それとも首がいいか?」と、ひとり言をブツブツ言っている。
「姿を見せろよ」
そう言って、疾斗は頑強符を構えた。
「姿は見せねェ。が、オメェらが退屈しねェように遊び相手を用意してやったぜ」
そのセリフとともにたくさんの何かが木陰から飛び出してきた。
「…犬?」
その姿はどう見ても犬だった。しかしただの犬ではなく、神社によく設置してある狛犬だったのだ。
疾斗は首をかしげると、他の皆が普通以上に怯えていることに気がついた。ドゥーナにいたっては、顔が青ざめ、脚は立っているのがやっとなほど震えている。
「どうしたんだよ、みんな?」
「は、ハヤトはあれが恐ろしくないのか?」と、ガンゾー。
「いやまあ、狛犬が動いてるのはたしかに怖いけど、そこまでじゃないな」
こう言った直後、「ハッ」と疾斗は理解した。
まず、皆は狛犬を知らない。あれが何か知ってさえいればまだ救いはあるが、そもそも彼らは知らないのだ。
生き物とも判別しがたい、得体の知れないものが目の前に二十数匹も現れたら、それはこんな反応を示すのも無理はない話だ。
だがそんなことをしているうちに、狛犬にキャンプ地を囲まれてしまった。半魚人がわんさといるのに、彼らも恐怖で身動きひとつできなかった。
数分の沈黙が続いたが、そのわずかな時間に、皆の精神は確実にすり減っていった。そして、その沈黙を破ったのは意外な人物だった。
「このままじゃ、みんなここで死ぬよ」
アズーが虚空を見つめて呟いた。
「どうゆう意味かな。“ちっこいの”?」とヤルバーがいかにも平静を装う。
「ドゥーナちゃんばっかり見てる人に、そんな変な呼ばれ方されたくないよ」と、アズーは小さい声でツッコんだ。
「な、なんのことかな〜。ハハハ…」と、ごまかすヤルバーだったが、時すでに遅し。ドゥーナは冷たい視線を彼に向けている。
「それはそうと、さっきの言葉の意味だけどね…」
アズーは一呼吸おいた。
「ぼくは“未来を見る”ことができるんだ」
得意げにそう言った少年に皆の視線は集まっていた。




