ニータ=モカフス
「ニータ…だと。それはニータ=モカフスのことか?」
ガンゾーが謎の美女に向かってこう聞いた。
しかし美女はいたってマイペースに話を進めていく。
「その前に場所を変えた方がよさそうじゃの。まだあのツタが狙っているのが感じられぬか?」
「しっかし変な語尾だな」胸の内でそう呟いた疾斗に、アズーが歩み寄り、耳打ちをした。
「…あのお姉さん、おもしろいしゃべり方だよね」
自分の考えていたことと全く同じことを言ってくるものだから、疾斗は「だよな」と笑ってしまった。
それから一行は謎の美女に連れられて、森の奥へと進んで行った。
しばらく歩くと、開けた場所に出た。澄んだ池がある、静かな場所に。
半魚人たちがキャンプの準備をしてくれている間、疾斗とアズー、ドゥーナとガンゾー、ヤルバーは謎の美女の話を聞くことにした。
「自己紹介がまだじゃったのォ。妾の名はネイビス。占いをしておる者じゃ」
まじまじと見てみると、吸い込まれそうなほど美しい黒髪が腰まで伸びていて、並の男じゃこの魅力に敵わないだろうと疾斗は考えていた。
そしてずっと気になっていたことを、疾斗は尋ねてみた。
「ネイビス、あんたは異世界に行ったことはあるか?」
急にこんなことを聞かれたら、普通の者は「は?」となるだろう。が、このネイビスは疾斗の見立て通り、普通の者ではなかった。
「知り合いにだったらおるぞ」
平然としてネイビスは言った。
「ましゃか、ニータか?」と、そこにガンゾーが入ってきた。
ガンゾーの質問に対し、ネイビスは言葉でなく行動で答えた。彼女は明らかに“この世界の文明では作り出せないもの”を黒い服の間から取り出した。
まぎれもなくそれはスマートフォンだった。
彼女は白い指で暗証番号を打ち込み、ニータという人物に電話をかけた。
この世界に電波が通っているのか、と疾斗が若干混乱していると電話がつながった。
「ネイビス、どうしたの? 疾斗には会えた?」
この声を聞いた瞬間に疾斗の目から涙が溢れ出した。この声の正体、それは、
「愛結、だろ?」
富沢 愛結。疾斗の同棲相手で、彼がレヌァスンに来たちょうどその日、結婚を申し込むつもりでいた女性だ。
電話の向こうの相手も泣き出した様子で、すするような泣き声がかすかに聞こえてくる。
それから5分。やっと相手は、「よかった…。無事、だったんだね」と声を発した。
しかし、空気を読むことのできない人物がいた。
「せっかくの声のみの再会じゃが、今は用件だけ話すべきじゃ」
ネイビスだ。
「そ、そうね」と、愛結は気をとりなおしたように話し始めた。
「疾斗、よく聞いて。どうしてあなたがレヌァスンに転移したのかはわからないけど、まずは大きな沼地を探して。そして、そこの半魚人さんたちを頼って」
これに対し疾斗が応えようとした時、「安心しろ、ニータ。半魚人はもう一緒だ」というセリフが後ろから聞こえてきた。
「ガンゾールゾさん?! どうしてあなたが…?」
ニータは今の言葉だけでガンゾーだと判断したらしく、声が自然と高くなった。
「ま、待ってくれよ!」
両手を広げ、疾斗は声をあげた。
「愛結は…、ニータはレヌァスンの住人だったってことか? だったら、どうやって俺の方の世界に来たんだよ?」
これを聞いて、「フハハ」と笑うネイビス。
「お主はやはりおもしろい男じゃの。“どうやって”か。“どうして”ではなく?」
「それは個人の考えってやつで、俺が知りたいのは方法だ」と、いたって冷静に返す疾斗。
だがニータは、「いいえ。ここは理由から説明するわね」と言った。
「ニータがそう言うなら…」と疾斗。
そんなことで、愛結もといニータが疾斗の世界に移り住むことになった理由を彼女は話し始めるのだった。
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