ガンゾールゾ=ディタ=ヘルメフォン
なぜあの場面で名乗ったのか。しょんなことは俺しゃま自身が聞きたいくらいだ。もう辛抱できなかったのか、ただのやけくしょか。それはあの瞬間の俺しゃまにしかわからない。
しかし確かに言ってしまったのだ。俺しゃまは。自分が行方不明の貴族、ガンゾールゾ=ディタ=ヘルメフォンだということを。
皆が見ているな。だが無理もないだろう。ドゥーナから俺しゃまの昔の話をしゃんじゃん聞かしゃれてきたのだから。
見知らぬ紫髪の男がイムトゥの気を引いているのが遠くに見える。ハヤトの仲間だろうか。
では、始めるか。
「聞け、皆の者ォ!」
俺しゃまは水を揺らして声を伝えた。
「先ほどの言葉は一度忘れてほしい。そしてガンゾールゾとしてではなく、『沼の牙』の隊長として皆に命令する」
よし、皆聞いているな。
「まず第一小隊は紫髪の男の援護にあたれ! 次に第二小隊はドゥーナ様とアズー、先の攻撃で気を失ったハヤトの救出! そして第三小隊は俺しゃまについてこい!」
「ハッ!」
急がねば。急いで“アレ”を探しゃねば。
「隊長、“カギ”は流されておらず、無事発見できました!」
第三小隊のまとめ役、アルンパの声だ。
「でかしたぞ、アルンパ。ではこれから任務を第2段階に移行しゅる。呪束砲の起動準備にとりかかるぞ」
呪束砲。しょれは呪具の力を収束して打ち出しゅことができる、我らが沼の城の最終にして最強の呪具だ。
「よしアルンパ、カギを使って呪束砲を起動しておいてくれ。俺しゃまはドゥーナ様の『女神の瞳』を受け取って戻ってくる!」
その言葉とともに俺しゃまは水に埋め尽くされた城の床を蹴る。
ドゥーナは『女神の瞳』を艶やかな首もとからはずし、アズーを抱きながら水面に浮いていた。
しかし、ドゥーナは『女神の瞳』を使って自分をマインドコントロールしているから、外してしまえばその効果は当然なくなる。そのため、
「あっ、隊長……。はわわっ、こ、これ。女神の……瞳、ですっ!」
と、極度の挙動不審(俺しゃまに仕えていたときの状態)になってしまっていた。
アズーはしょれを見て笑っている。
「あはは、ドゥーナちゃんおもしろーい」
「ドゥーナ、先ほどのことなんだが…」
「はわ、な、なんのこと……ですか? 私には、何も、聞こえません……でしたよ?」
「しょれなら良い」と言い残して俺しゃまは再び沼へ潜った。
女神の瞳を呪束砲にセットし、イムトゥの方を見やる。こんな時だが、俺しゃまはヤツがまだ半魚人だったときの名を思い出していた。
ギュイヴ。それがヤツの昔の名だ。ギュイヴはキョルメ=ルネイスに姿を変えられた。辛かったはずだ。1人だけ城の外に追いやられ、おまけにあんな“呪い”まで……。
「いま、無限の苦しみからお前を解き放つ……。行くぞ、ギュイヴッ!」
俺しゃまの咆哮とともに、呪束砲から一筋の光がギュイヴに向かって伸びてゆく。
ヤツの呪いを解くことができない自分が悔しい。それは俺しゃまだけでなく、この場にいる半魚人全員が思っているはずだ。しょうでなければ、皆がなぜ唇を噛みしているのかを教えてもらいたい。
光は静かにギュイヴを貫き、徐々に細くなり、しょして消えた。まるで、彼の命の最期の輝きを映しゅかのごとく。




