身体の異変
照れ屋な太陽はまだ顔を出さず、肌に感じるのはピリピリとした冷気だけだ。
踏みしめるたびに足が痛む。それもそのはず。何日も歩き詰めで、休むヒマも疾斗にはなかったのだから。
「ところでよ、」と、疾斗の後ろを歩くヤルバーが唐突に口を開く。
「ハヤトの着ている服ってのは、いったいどこで売ってるんだ?」
レヌァスン生まれ、レヌァスン育ちの彼にとってワイシャツは初めて見る奇怪なものだったのだろう。目を見開きながら観察している。
「これは……。なんていうか、」
適当にごまかそうかと思っていた疾斗であったが、彼の中のヤルバーは『スカしていてめんどくさい男』から、『スカしているが、もしかしたらいいヤツ……?』というところまで株が上がっていたので思いきって正直に話すことに。
「……実は俺は、別の世界から来たんだ」
そのとき、それを聞いたヤルバーの面持ちが変わった。しかししゃべるそぶりもないので疾斗は続ける。
「お前と出会う少し前にこっちに来たんだけどな……。って、あれ? 俺、あれから着替えてないのに、“汗かいてない”?」
何日も着たら、汗のせいで着れなくなるはずなのに、泥汚れや血痕以外にワイシャツに付いているものはない。
それに考えてみれば、まだ不思議なことはあった。
疾斗はレヌァスンに来てから何1つ口にしていないはずなのに未だに空腹になっていないことだ。
「どうなってんだよ、俺の身体……」
目の前の男から「説明しろ」と言いたげな目で見つめられていることにやっと気づいた疾斗は、占い師の格好をした老婆に出会った所からこれまでの出来事を説明した。
ひと通り聞いたあとでヤルバーが喋る。
「きれいなお姫さまがいるんなら、急いでその沼の城ってとこに行かないといけないぜ」
この台詞のせいで、疾斗の中で上がりかけていたヤルバーの株は出会った頃と同じ、最低に戻ってしまう。
猛烈にがっかりした疾斗は、
「もう少しまともなヤツだと思ってたよ……」
とつぶやいて沼の城へと歩き出した。
「ん、なんだって〜?」
くっついてくるヤルバーを引きはがしながら、疾斗は自分の身体の異変について考えを巡らせていた。
そして、腹をくくった恥ずかしがり屋の太陽がレヌァスンの空に昇っていくのだった。




