もうひとつの波長
自分の波長を操る。そんな芸当が自分にできるのか。そもそも波長を感じ取る段階にすら至っていないというのに。そんなもっともな疑問を抱く疾斗。
だが頭を抱える疾斗を意に介さずゴン爺は笑う。
「そのためにもまずは感じ取るところから、じゃ」
波長を感じ取る。簡単そうに聞こえて遥かに遠い第一歩。
「どう…すれば?」
「心を平静に、器にするんじゃ」
「心を平静に、心を器に……」
言われたことを反芻しながら疾斗は全身の力を抜き、心を無にしようとしてみた。
何分、何十分と時間が過ぎた頃、疾斗の心にはざわめきが映し出されていた。
「これは、木?」
風に吹かれる草木の波長が自分の心に反映されていると思った疾斗はそう呟いた。
するとそれを聞いていたゴン爺は、「それだけではなかろう」と。
改めて心を無にする疾斗。すると草木のざわめきだけでなく、虫や鳥などの生き物の拍動を感じ取っていることに気付いた。
「うるさい……」
「周りの波長が一気に流れ込んできとるんじゃ、無理もないじゃろうのう。ともあれおぬしは波長を受け取ることに成功したんじゃ。次はその意識を自分に向けてみぃ」
その言葉を聞いて、自分の内側に流れる波長に集中する疾斗。一つ、また一つと意識から他の雑音が取り除かれていき、最後に残ったのは“2つ”の波長だった。
「ひとつは俺だとして、もうひとつ、この禍々しいのはなんだ?」
考えて出た答えは疾斗の中のデュリオスであった。
このとき疾斗はゴン爺の『光になりたくば闇を知れ。敵を知らねば戦えぬぞ』という言葉を思い出していた。
これからデュリオスという未知の敵を知るのだと改めて認識し、なんとも言えない感情がこみ上げる疾斗。
「恐ろしいかの?」とゴン爺。
ふいに自分でも掴みきれなかった心を見透かされ、疾斗は動揺する。
「怖いのか、俺……」
そんな疾斗にゴン爺は優しく声をかける。
「大丈夫じゃ、ハヤト。ワシがついておる」
その温かい言葉でようやく安心することができた疾斗は自分の中にいるであろうデュリオスの波長にさらに集中する。
「……やっぱり、怖い。いや、怖がってる」
「“怖がってる”とはデュリオスが怖がっておるのか?」
「はい、なんだか集中すればするほどヤツの恐怖みたいな感情が伝わってくるんです」
「なるほどのう……」とゴン爺は顎ひげをなでる。
「その恐怖の理由を知ることで何かわかるかもしれんの…」
「そのためにももう少しこの修行を続けてみます」
静かに、力強く答えた目の前の青年にゴン爺は黙ってうなづいた。




