波覚
大熊との戦いを終えた疾斗とゴン爺は小屋へ戻って来ていた。
「うぅ、身体中が痛い…」と疾斗が肩を回す。するとすかさずゴン爺が『与命ビン』を構えた。
「いつでも治癒できるんじゃぞ?」
「いや、なるべくしないでください。これ以上ゴン爺さんの寿命をもらうわけにいかないんで」
重めなトーンで返すのも無理はない。人の命の一部を自分の回復のために受け取ることは彼の心が許さなかったのだ。
疾斗の意思を聞いて、「そうか」と自分の呪具を仕舞ったゴン爺は虚空に拳を放つ。
「ならば早速『無戦の極地』を教えるとするかの」
「お願いします」
「おぬしにこれから教えるのはワシの行き着いた武の極致じゃ。再三言っておるが、負けぬためには…」
「戦わぬこと、ですよね?」
「そうじゃ」と満足げに頷くゴン爺。
「大熊が現れた時に見せたが、やり方は分かったかの?」
たしかにゴン爺は直立不動で戦わなかった。それは分かったのだが原理はどうにも知り得なかった。そのため、ゴン爺の問いに首を横に振って答える疾斗。
「そうか。では疾斗よ、獣は何のために狩りをするのかのぅ?」
「生きるため、食べ物を集めるためだと思います」
「ふむ。ならば獣はどうやって獲物を識別しておるのかのぅ?」
「目で見て、ですよね」
「そうじゃな。“そう思うのも無理はない”」
疾斗がゴン爺の顔を見るとその表情は孫に道理を噛み砕いて教える祖父のような穏やかさを携えている。
「獣たちは視覚、嗅覚、聴覚などの感覚を超越した“波覚”というもので獲物を見とるんじゃ」
「ハカク…?」
「生きとし生けるものがそれぞれ発しておる波長を感じとっておるとされる」
その言葉を聞いて、呪具も自分の波長と対応するものしか使えないということを聞いたことがあると思った疾斗。
「じゃあそれを俺も感じ取れるようになれ、と?」
「いいや……」
そう言うと思ったと言わんばかりにため息をついてゴン爺が答えた。
「その先へ、己の波長を操ってみぃ」




