代償
「思った通りだ…」
自分の人差し指で回る純白の戦輪を見つめて笑う疾斗。
「この『風斬』は俺のイメージ次第で形が変わるっていう効果なんだ!」
風斬という言葉から疾斗は無意識に剣を想像していた。そのために初めて使った時には剣として現れたというわけだ。
そうしてその原理を知った今、疾斗は風斬を戦輪へと変化させた。いったいどうやって戦うというのか。
「要はフリスビーみたいなもんだ。回して、投げるッ!」
疾斗の声と共に戦輪は勢いよく飛んだ。ところが無念、それは全く明後日の方向に飛んでいってしまう。
そして自分への攻撃が失敗したことを見てとった大熊はここぞとばかりに昂り、疾斗を目掛けて突進していく。
しかしどうしたことだろう。疾斗の表情は妙に明るい。
「よし!」
疾斗がガッツポーズを取る。そして大熊の後方に目をやると戦輪が軌道を変え、なんと大熊に向かっていくではないか。
スパァッ
大熊の背中から胸にかけて鋭い一閃。たちまち巨体は前に倒れた。
「グゥ、グァウ」
もはや大熊の瞳に敵対の色はなく、それどころか服従心のようなものが見て取れる。
「俺の修行のために、悪かったな。傷は浅いから安心しろよ」
そう言って大熊の側にしゃがみ込んでその背中を撫でてやると、言葉が伝わるはずもないのに、「いいよ」と返ってきた気がした。
「ゴン爺さん、コイツを治してやってください」
立っていただけのゴン爺は振り返り、「なかなかやるのぅ」と寄ってくると小ビンを取り出し、そこに息を吹き込む。いつか見たピンク色の液体が底に溜まった。
そしてそれを大熊に一滴二滴と垂らす。途端に大熊の体はピンク色の光に包まれた。
「ゲホッ、ゲホッ…!」
ゴン爺の突然の咳に違和感を覚えた疾斗。
「大丈夫ですか?」
「なに、大したことではない。ただの呪具の呪いじゃて」
呪具の呪い。その響きはとても重かった。
「実はの、ハヤト」とゴン爺が語り出す。
「ワシの呪具、『与命ビン』は自分の寿命を他人に分け与えることができるというものなんじゃ」
「まさか…」
「フッ……。四肢戦士の中になぜ一人老人が、と思っておったろう。ワシは元々他の者と同年代だったんじゃよ」
どこまで他人を治癒したらこれほど年老いた見た目になるのだろう、と疾斗は考えていた。同時に、それはゴン爺自身の意思であったのか、とも。
おそらくほとんどは教皇、つまり疾斗の祖父に命じられてのことなのだろうという推論に行き着き、彼はますます自分の祖父に対する怒りを膨らませた。
だがそんな疾斗に苦言を呈するゴン爺。
「これ、余計なことを考えておる暇はないぞ。1日でおぬしを鍛えると言ったんじゃ。やることはまだある」
自分の命を顧みずに協力してくれるゴン爺に胸を熱くしながら疾斗が頷く。
「はい! じゃあ次は何を?」
「言ったじゃろう。負けぬためには戦わぬことじゃと」
どうやら次の試練も厳しくなりそうであった。




