第4話 ドナドナが聞こえる
僕にはわかった。
この先輩は変人だ。
こういうのには関わらないに限る。
知り合いに変人は佳奈美だけ充分。
おつりが来る位だしできれば返品もしたい。
僕の足は少しずつ後退を開始する。
「まあこの学校の設立経緯の怪しさとか、ここが外八州・内八州史観でいうところのちょうど日本のこの場所に相当する場所にあるとか、ネタは色々ある訳だ。
でも正直、部員がいないと同好会が公認されない。同好会の構成要件は生徒三人以上の所属。
そんな訳で部員を二名大募集していたのだよ」
そう言いながらすっと彼女は僕が逃走しようとした方向へと動く。
逃げようとしたのがバレたのだろうか。
「例えばこの学校が魚座から水瓶座の時代に移る事になる象徴を隠しているとか。
1年だけしか務めていない初代理事長が竹内文書の研究者だったとか。
その辺を含めて冗談と思うなら思ってくれてもいいのだ。
要はそれをネタに学校内を遊び回ろうという活動だからな。
申し遅れたが私は二年A組の神流律化という。普段は理化学実験準備室に陣取っているので、良ければ遊びに来てくれ」
ん、今まずい単語が聞こえたような。
「理化学実験準備室?」
しかも佳奈美に聞かれた。
これはまずい事態かもしれない。
「そう、理化学実験準備室だ。他に借りられる部屋が無くてな。薬品倉庫と実験資機材室を兼ねた部屋だ。でも一応学内LAN回線がGBの速さで引いてあるし、それなりに快適だぞ」
あ、あ、あ……
佳奈美は化学薬品が大好きだ。
特に硝酸。
理由は簡単、爆薬が作れるから。
頭良過ぎる癖に幼稚なので、危ないものが大好きなのだ。
当然硫酸や塩酸等の劇薬も大好き。
黄リン赤リンどんと来い。
金属ナトリウムをプールに投げられた時は本当どうしようかと思った。
「行くのです」
ああ……
この場合に僕が取るべき手段はいくつかある。
1.撤退
2.退却
3.逃走
という訳で。
僕は佳奈美に関する全部の権利(というより義務)を会ったばかりの神流先輩に譲り渡す決心をした。
さらば佳奈美元気でやれよ。
そう思いつつ逃走を開始しようとしたところで。
思い切り制服の端を掴まれたままだった事に気づいた。
「朗人も一緒なのです」
うん、わかっていた。
どうせそうなる事は。
ちょっと現実逃避をしたかっただけだ。
そんな訳で僕は佳奈美とともに神流先輩についていく事になるのだった。